「メタバース」がバズワードになっての変化
「メタバース」という言葉がバズワードになったこの1年。関連するソリューションを提供する企業にはどんな影響があったのでしょうか。
エヌビディアは、仮想空間プラットフォーム「NVIDIA Omniverse」を提供。3Dデータを複数のユーザーが共有しながら制作を進めたり、製造業の工場のデータのデジタルツインを作ってその上でさまざまなシミュレーションを行ったりといったことが可能です。
「製品の販売開始が2021年の11月だったのですが、ちょうどその直前にFacebookが社名をMetaに変更して、『メタバース』という言葉の注目度が高まった時期でした。そのこともあり、私たちの製品にも興味を持っていただける方が増えた印象があります」(高橋氏)
そして上田氏も、「良い意味でも悪い意味でも大きな反響があった」と話します。
「マイクロソフトでは、HoloLensをはじめとしたMixed Reality(MR)テクノロジーを活用した製品を提供しています。メタバースの核となる技術のひとつがXRということで、これまでXRに注目してこなかったような企業からも問い合わせをいただくようになり、良い意味でインパクトがあったと感じています。一方で、まだ定義が定まっていない言葉なので、よく理解しないまま『メタバースをやりたい』という漠然とした相談をいただくことも多いのが現状ですね」
今後メタバースの活用が進む分野は?
続いて、メタバースの技術が活用されていくことが想定できる分野について、それぞれの見解が語られました。高橋氏は、「3Dデータを持っている産業が先行する」と予測します。
「設計や製作の部分で3DCGを使っている業界、たとえば自動車を含めた製造業の設計データや3Dデザインのデータをデジタル空間に取り込んで、メタバース空間内でさまざまな運用をしていくといった活用がまず広がるのではと考えています」
上田氏も、製造業や建築設計分野での活用の可能性を挙げ、それに加えて「医療分野での活用にも可能性がある」と話します。さらに、コミュニケーションツールとしての活用の可能性にも期待を寄せます。
「デジタルの空間でのコミュニケーションコラボレーションに使いたいという問い合わせが非常に増えています。一般消費者のお客さまに向けたビジネスをしている企業に加えて、社内のコミュニケーションで使いたいというケースも多いですね」
マイクロソフトでは、HoloLens2で利用できるメタバースプラットフォーム「MicrosoftMesh」を提供。さらに今後は、MicrosoftTeamsでもアバターを使ったコミュニケーションのできるサービスを開始する予定となっています。
「コロナ禍を機に、リモートワークやハイブリッドワークなど、いろいろな働き方があってもよいという認識が広まっていますが、その中のひとつの選択肢として、メタバースの技術も使われていくのではないでしょうか。とはいえ、やはり物理的な対面のコミュニケーションに勝るものはないと思うので、従来のコミュニケーションが一気に全部メタバースに切り替わるようなことはないと考えています」(上田氏)
さらに、メタバースは職人の技術継承にも活用できるのかというテーマについては、上田氏は、「完全にデジタルに置き換えられるものではなく、あくまでも若手がベテランの技術を学ぶための補助ツールとして使うもの」だと話します。
高橋氏も、「トレーニング効率や学習効率を上げたり、これまで定量化できなかった部分を定量化したりといった部分にXR技術を使うのが一番の本質だと思っている」と、その意見に同意します。
メタバースのこれからに向けて
セッションの最後には、両氏がそれぞれのメタバースについての展望を話しました。
「エヌビディアでは、メタバースの活用を非常に幅広く考えています。映像化できるもの、グラフィックになるものはすべてメタバース空間に乗せていくことを構想していますし、今後はロボットのシミュレーションに加えて自動運転のシミュレーションなどにも連携していくことを考えています。まだ時間はかかりますが、そんな未来を見すえて活動していくことが、私たちのミッションとなっています」(高橋氏)
「メタバースはとても注目されている一方で、やはりまだこれからの技術だと思うので、大切に作っていきたいと思っています。まずはマイクロソフトの強みを生かし、産業分野、法人分野での活用を進め、そこからメタバースを使うことでどんなメリットがあるのか、どう意味のある活用ができるのかを見出していき、少しずつ活用の幅を広げていきたいと考えています」(上田氏)