■日本のメタバースの現状は?

セッションの冒頭ではまず、登壇者それぞれが、自社の事業を通して感じるメタバースの現在の位置づけについて話しました。

浅見 和彦 氏:株式会社Psychic VR Lab / Producer(左)
赤川 隼一 氏:株式会社ミラティブ 代表取締役(中央)
荒木 英士 氏:REALITY株式会社 代表取締役社長/グリー株式会社 取締役 上級執行役員(右)

「今のメタバースブームは顧客不在なところが危険。エンドユーザーでメタバースをやりたいからこのサービスを使うという人があまりいないのが実態」と赤川氏は指摘します。

一方で、メタバースがどのような場所に作られていくかについては確信があり、それはゲームだと言う赤川氏。現在が、「ライブゲーミング」とよばれる領域に注力していると語ります。

「従来のゲーム配信では、視聴者はコメントをする程度しかできませんでしたが、ライブゲーミングでは、配信者に対して回復アイテムや装備品をプレゼントするなど、アイテムレベルの相互コミュニケーションが可能になります。これが2020年代のゲーム体験における一番のキラーコンテンツになると信じています」

現時点ではメタバースとして取り組んでいる事業はないものの、ライブゲーミングを突き詰めた先に、ユーザーからメタバースだと認識される場をつくることをめざしているといいます。

赤川 隼一 氏

浅見氏は、「リアルメタバース」という言葉で自社サービス「STYLY」が掲げるあり方を説明します。

「例えば街でARを体験すると、ARなしの街しか見ていなかった時とは感覚が変わって来ると思います。VRも含めて、コンテンツを体験したことによってその人の物事のとらえ方た感覚がアップデートされること自体がメタバースの本質だと考えています」

同社が提供するリアルメタバースのサービスでは、実際の街に足を運び、その場でスマホをかざしてARアートを表示するといった、「リアルにバーチャルを重ねる」体験を提供しています。その特徴について、浅見氏はこう話します。

「例えば『バーチャル渋谷』のような実際の街をVRで再現したメタバース空間は、いつもと違う世界に入ったような体験が面白さであり持ち味です。一方で、実際の渋谷でARを表示して楽しむことは、現実世界にレイヤーを重ねる体験で、そこで得られる感覚ははまったく違ってくると思います」

■グローバル市場で日本にチャンスはある?

続いて、グローバルなメタバース市場に対する可能性について、登壇者がそれぞれの見立てを語りました。浅見氏は、自社で展開するクリエイター育成プロジェクト「NEWVIEW」に期待を寄せます。

浅見 和彦 氏

「例えば、ウォークマンを“音楽を身にまとう”、スマホを“情報を身にまとう”と表現するとしたら、XRが普及するこれからは“空間を身にまとう”時代が訪れると考えています。その時代に向けて、XRの表現者を増やしていく取り組みを行っています」

NEWVIEWでは、日本だけでなく、台湾やニューヨーク、ロンドン、トロントなどでスクールを開講。受講者の多くはXRの初心者とのことです。

「グラフィックデザインをやっている方などに、2次元にプラスして3次元でも表現してみませんか、ということを啓蒙しています。メタバース時代のクリエイターになろうという意識を持った人たちが集まっている印象ですね」

世界のクリエイターと接していて浅見氏が感じるのは、日本に対する評価の高さだと言います。

「優れた作品を選出するアワードを開催しているのですが、よく聞かれるのが『日本に行ける副賞はないのですか?』ということ。正直、私自身は日本はもう終わりなのではと思っていたのですが、海外のクリエイターから見ると、IPも含めて日本に魅力を感じ、日本で仕事をしたいと考える人は結構多いようです。グローバルをめざすにあたり、そこはフックになるのではと考えています」

■日本はもっと自信を持っていい

自社のサービスをどうグローバルに展開していくかというテーマについて、赤川氏は次のように話します。

「どんなUIを使いやすいと感じるかといった部分は国や文化で違いが生じますが、根源の欲求や心理的な部分は、人間であればそれほど変わらないと思っています。テクノロジーの進化でそれがより滑らかになり、本質的に良いビジネスモデルであれば、グローバルでも通用しやすい時代になっているのではないでしょうか」

浅見氏も、テクノロジーの進化で、国を超えてコミュニケーションが取りやすくなったことがグローバル化にも大きく影響していることを指摘します。

「インターネットが登場した当初に比べると、翻訳ツールの進化などで世界の人とコミュニケーションが取りやすい状況になりました。国籍や住んでいる地域に関係なく使いやすいものを作ることで、自動的にグローバルになっていくのではと思っています」

最後に中川氏は、「日本企業はもっと自信をもっていい」と強調しました。

「イーロン・マスクが、『アイドルマスターシンデレラガールズ』の画像をTwitterに投稿したことが話題になりましたが、あれだけ忙しい人が日本のスマホゲームに関心をもち、プレイしている可能性があるということに、日本はもっと自信をもっていいと思います。日本と海外に分けて考えるのではなく、趣味嗜好やカルチャーベースのコミュニティを意識してサービスを展開していくのがよいのではないでしょうか」

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