■Web3のキーワードは『join』

「 Web3やメタバースは5〜10年後に世間で活用され始める。今は、自身が所属している業界で5年後にどのような変化が起こるか、想像力を働かせるために触れておくとよい」(伊藤氏)

このセッションでは、まだ定義として曖昧なWeb3やメタバースの世界観、Web3時代の新しいコミュニティであるDAOの可能性、Web3やメタバースの未来について語られました。

伊藤 穣一 氏(右)
 デジタルガレージ取締役 共同創業者 チーフキテクト
馬淵 邦美 氏(左)
 一般社団法人Metaverse Japan 共同代表理事/PwCコンサルティング合同会社 パートナー執行役員

「Web1からWeb3の流れをread、write、joinと表現しているのは秀逸」と馬淵氏はいいます。read、write、joinはWeb1からWeb3のそれぞれの特徴を捉えて伊藤氏が表現した言葉です。

伊藤氏は「Web1はサーバーにアクセスすれば誰でも情報を見ることができ、Web2はクラウドとモバイルでソーシャルメディアに誰でも投稿ができるようになった。Web3では、さらにDAOなどの組織に参加して、透明性が高い中で議論ができるようになる。これは新しい要素であり、非常に面白い」と話します。

5歳の子でも自分で組織を作り、自身で責任を持ってリーダーになれる。誰でも中心になれる、より主体的に行動できる時代を表して『join』という言葉がふさわしいと語られました。

■1つの世界に多様な方法でアクセスできてこそ『メタバース』

馬淵氏は、Web3やNFTとの関連性を踏まえて「非常に広い意味で捉えられるメタバースはどのように定義されていくか」と伊藤氏へ問います。

「重要な要素は1つの世界(ユニバース)があること。それぞれのパソコンにバラバラの世界がある状態はメタバースと言えません。一方で、メタバースを利用するために必ずしもimmersive(没入型)である必要はなく、多様なアクセスのしかたがあってよいと考えています」(伊藤氏)

さらに、Metaverse Japanが作成した2030年までのロードマップを見て、ブロックチェーンの役割や展望について触れていきます。

「現段階では暗号資産の取引以外ではさほど役に立っていない。でも、短期的に役立つことだけを求めていたら新しい技術は普及しない。」(伊藤氏)

重要なのはブロックチェーンの安全性や拡張性が検証されてからで、約10年後には役割のシフトが起こるといいます。

そのため、伊藤氏は「短期的に考えて何に役立つのかではなく、中長期的に考えていく必要がある。その点において、Metaverse Japanのロードマップは2030年まで見ている点がよい」と評価していました。

■Web3時代のコミュニティ『DAO』の可能性

「Web3の流れでは金融サービスはDefiへ、所有権はNFT、株式会社はDAOへシフトする事例もあるだろう」と馬淵氏は言います。

また、新しい社会システムとしてDAOが広がっていく可能性を伊藤氏へ質問し、伊藤氏は「十分にあり得る。ユーザーにトークンを半分以上発行しているDAOはプロダクトの透明性が高く、熱心にユーザーが参加している」と高く評価しています。

一つの事例として、創業者がユーザーよりもトークンを持っていない場合もあり、ユーザーがリスクテイクをしつつ新しいプロダクトに積極的に参加しているケースもあることを紹介していました。

伊藤 穣一 氏

さらに伊藤氏はDAOという組織を大学に見立て「大学に所属した上で得られる学位(トークン)は学会(ブロックチェーン)によって本物と認められる」と、その関係性および透明性が担保されるしくみについて説明しています。

これを聞いて馬淵氏は「非常に興味深い。DAOのようなコミュニティはメタバースの世界観に非常にマッチしやすい。DAOとメタバースが絡んでいくと、さらに面白い」と語っています。

■Web3とメタバースの未来は?

Web3やメタバースの未来をどのように予想するか問われ、伊藤氏は「Web3で一番インパクトが強いタイミングはAIと繋がる時」と答えています。

なぜなら、ブロックチェーンによって透明性の高いやりとりができるようになったとしても、肝心の透明性を解析できなければ意味がないからだと言います。

しかし、ニューラルネットワークのような既存のAIには多くのコンピュータパワーが必要で、資金力のある国や大企業でないと使えないのが現状です。

「メタバースにも多くのコンピュータパワーが必要なため、あまりエコに稼働できていない。今後、パワーが抑えられてエコな稼働ができるメタバースも出てくるか」という馬淵氏の問いには、伊藤氏は自身が開発しているAI『不確実性コンピューティング』を例に出してこう語りました。

馬淵 邦美 氏

「人間の脳に近い構造で開発ができればあまりパワーを必要としない。家庭用のパソコンでAIによる解析ができるようになれば民主化が進み、より面白い方向に進んでいく」

結びの言葉として伊藤氏はこう語ります。

「今は短期的な売り上げを求めるには早い時期。とはいえ、社内のいろいろなしくみを変えるのは時間がかかるので、今から実際に触りながら準備を進めることが大切です。そのため、アートや音楽、ゲームなどのメタバースがすでに活用されている分野から触れていくとよいでしょう」

TOP