■『メタバーキン』は何が問題視されたのか?

このセッションでは、メタバース内で実際に起きた2つの問題を事例として取り上げ、それぞれについてルールメイクの視点から議論しました。

馬渕 邦美 氏:PwCコンサルティング合同会社 Partner 執行役員/ Metaverse Japan 代表理事(左)
河合 健 氏: アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業(中央左)
上田 泰成 氏:経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課 課長補佐/産業戦略担当(中央右)
道下 剣志郎 氏: SAKURA 法律事務所 代表弁護士(右)

最初の事例は、エルメス社の高級バッグ、バーキンを模したデジタル製品がメタバース内でNFTとして販売され、それに対してエルメス社が販売元を提訴した『メタバーキン事件』です。

河合氏はこの事件について、「どんな商品でも起こりうる普遍的な問題」だと指摘します。

「エルメス側としては、公式に承諾したものと受け取られたくないし、自社が商標を取得しているものを勝手に使われたくないと当然考える。一方で、メタバーキンは実際のバーキンの外見そのままではなく、クリエイターが独自に装飾を施したもの。クリエイター側からすると表現方法のひとつであり、経済活動でもある。その折り合いをどうつけるかが課題です」

河合 健 氏

上田氏は、「企業がリアルで販売する商品の商標を取得するときに保護対象範囲を拡充していくことも必要」と、事業者側の対策を強調。リアルな商品がメタバース内の商品に置き換わることを前提に商標登録を行う必要があると話します。

そして道下氏は、「この裁判では、連邦裁判所はNFTの中の商品性は認めてはいる。これは非常に大きな成果だったのではないか」と指摘。

「今後メタバースが普及していくためには、そのなかで商品となっていくコンテンツの存在は欠かせません。NFTは、それまでコピペのできるデジタルデータに過ぎなかったものに希少性を与えて価値を生み、それをアーチストに還元できる技術だからこそ注目されてきました。裁判所もこの部分については考慮してくれているのではないかと受け取りました」(道下氏)

■メタバース内での人権問題への対応は?

続いて、Meta社のメタバース空間『Horizon Worlds』内で、女性ユーザーのアバターに複数の男性ユーザーがつきまとい、アバターの身体を触るなどした『メタバース痴漢事件』についても議論。

Horizon Worldsには、危険を感じたときに他のユーザーが自分のアバターに近づけないようにするセーフゾーンという機能が用意されているものの、被害者のユーザーは設定を行っていなかったとのことです。

これについて河合氏は、「このような事件に現実の法律をそのまま適用するのは難しいことが多い。まずはプラットフォーム内の規約やルールとして対応していくのがよい」と指摘します。

さらに、メタバースが国境のないコミュニティだからこその問題が起こる可能性もあると上田氏は言います。

「例えば、何をわいせつ行為とするかの定義は日本と中東では異なるかもしれない。そういった情報を集約した、国ごとのNG集みたいなものを作る必要が生じてくるでしょう。そして、そのルール作りを日本が率先して担っていくことが重要です」

上田 泰成 氏

■日本が率先してルールメイクしていく

日本が国際的なルール作りに先陣を切って携わっていく重要性については、道下氏と河合氏も同意します。

「Web2時代はルールメイキングで欧米に先を越されてしまった。だからこそ、Web3時代はチャンスをつかむ必要がある。日本は世界で受け入れられるエンタメコンテンツを豊富にもっているので、それを生かすためにもメタバース側のルールメイクは重要になる」(道下氏)

道下 剣志郎 氏

 

「まずは実際にメタバースを利用しているプレイヤーや業界から声を上げていくことが必要。ただし、過剰にルールで縛ってしまうとユーザーが萎縮してしまう可能性もあるので、犯罪行為に近いものなどに対して最低限の規制をしたうえで、国ごとの認識の違いを鑑みた共通解を見つけていく必要がある」(河合氏)

■技術要件などの標準化で重要なことは?

さらに話題は、ソフト面のルール整備だけでなく、技術要件などのハード面の標準化でどう舵取りをしていくかにも広がっていきました。これについて上田氏は、「国がある程度定義づけを行うことが必要」と言います。

「共創を完全に民間に任せるのではなく、政府が標準化を見すえて入り口と出口の部分を定義したうえで、その間のプロセスを民間に任せることが大切。そうしないと各社が個別に動いて標準化できずに終わってしまう可能性があります。これらの施策を経済産業省としても進めてきたいと考えています」(上田氏)

また、日本国内で人材を育成してビジネスを伸ばしていくという観点では、税制などの関係で海外に出て行かざるを得ないWeb3関連の起業家が相次いでいることも課題です。河合氏はこれについて、「日本にとどまってもらえるような税制や法整備を考えていく必要がある」と指摘します。

最後に道下氏は、今後のルールメイクについての展望として次のように語りました。

「ルールを作るためには、実際に何が起きてるのかをしっかり観察することが必要です。今はWeb3時代を担うツールのひとつとしてメタバースがようやく出てきた段階なので、ここで起きているファクトをしっかり追い、それに対してユーザーが萎縮しない形での後押しをしていきたいと思っています」

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