■支持されるコンテンツが生まれると、それがメタバースの定義になる

現在はメタバースという言葉が広く認知されるようになって日が浅い時期。言葉の定義もまだ固まっていない段階です。

上野氏は、「定義が決められてからコンテンツが出るのではなく、皆が認めるコンテンツが生まれることで、それが定義になっていく」と話します。

馬渕 邦美 氏(左) PwCコンサルティング合同会社 Partner 執行役員/ Metaverse Japan 代表理事 伴 哲 氏(中央左) 株式会社Thirdverse 取締役 COO 上野 広伸 氏(中央右) double jump.tokyo Inc. 代表取締役/CEO 澤邊 芳明 氏(右) 株式会社ワントゥーテン 代表取締役社長

では、どのようなコンテンツがメタバースとして認められていくのでしょうか。伴氏は、今後リリースされるコンテンツに期待を寄せます。

「去年、マーク・ザッカーバーグがメタバースについて発言してからコンテンツを作り始めた企業も多い。それらはおそらくまだ世に出ていないので、これから出てくるコンテンツがメタバースの基礎を作っていくと思います」

また、今後メタバースが広がっていくかどうかについて澤邊氏は、「リアルな世界より没入したいと思えるメタバースの世界ができるかどうかが転機」と話します。

澤邊 芳明 氏

そして上野氏は、ドライブレコーダーを例に挙げ、「リアルな記憶ではなく、デジタルに記録したことこそが事実として認識される方向にパラダイムシフトしつつある。リアルとデジタルの主従は、深層意識の中ではすでに逆転し始めている」と指摘します。

■エンタメ×DAOが描くメタバースの可能性

セッションでは、DAO(自律分散型組織)とエンターテイメントの可能性についても議論されました。

「面白いコンテンツを作るためには、初期段階では引っ張っていく人が必要。2年目・3年目と成熟してきたら、DAO方式にしてコミュニティ主導でコンテンツを継続していくのがよい。その形として、ゲームコンテンツやメタバースは好相性」(上野氏)

上野 広伸 氏

伴氏は「DAOの人たちは、スターウォーズでたとえるなら、世界を統べる元老院みたいな存在。今後はメタバース空間ごとに、そういった意思決定する人が現れるのでは」と話します。

また、著作権の切れたIP(知的財産)がDAOとして運用される可能性について澤邊氏は、「元締めのような存在がいると自由な活動ができないので、難しい部分は多い」と指摘。上野氏は、「日本のコンテンツも含め、IPには長寿命のものが多い。世界に広げていくには、どこかで折り合いをつけて公共物化していくことも必要かもしれない」と話します。

さらに、「IPをベースにしたメタバースを作るときは、著作権の扱い方にもう1段階なにか必要では?」という澤邊氏の指摘に対して、上野氏は「IPホルダーとそのIPを活用する側の双方にメリットがある解決策を見いだすこと。それが実現できれば面白い世界になる」と前向きな見解を示します。

■メタバースの世界で日本が勝っていくためには?

メタバースの世界で日本のコンテンツが持つ強みについて、伴氏はこう期待を寄せます。

「2Dのゲームやアニメ、漫画をメタバース化していくことにも需要はありますが、最終的にはメタバースから生まれたコンテンツが勝ち残ると思います。日本はコンテンツを生み出す力が強い国なので、世界の勝ち筋になっていけるのではないでしょうか」

伴 哲 氏

一方で、そのためにはクリアしなければならない課題もあるといいます。そのひとつが、規格作りへの参加です。

上野氏は、「国際団体のMetaverse Standards Forumが標準規格を作ろうとしていますが、作られた規格に従うだけでなく、日本としての意見をしっかり伝えることがグローバルで勝ち残っていくためには必要」と注意喚起します。

そして、グローバルに目を向けることも重要だと3人は口をそろえます。

「日本が勝っていくためには、最初からグローバル戦略を考えて設計していかなくてはならない。グローバル戦略さえうまくいけば、コンテンツ力では負けない」(澤邊氏)

「日本人が作る作品は、クオリティが高い一方でわかりづらいところがある。もっと世界に目をむけて誰もが理解できるような作品を作っていくことも大事」(伴氏)

「プロジェクト初期に英語で運用すると海外のプロジェクトとして認識される。そういった発信のできる言語力も必要」(上野氏)

最後にそれぞれの展望を語った3人。思い描く未来には、メタバースの中で人々が当たり前に生活する世界が広がっていました。

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