■メタバース空間で入社式を実施

2021年12月にメタバースコンサルティングサービスを開始したPwCコンサルティング。同社では以前から、ユーザー企業としてメタバースの活用に取り組んできたと奥野氏は話します。

奥野 和弘 氏
PwCコンサルティング合同会社/パートナー

「2021年から入社式をメタバース空間で行う試みを実施しています。その背景には新型コロナウィルスの流行で物理的に集まれなくなったことがありますが、決して単なる物理的空間の代理として使用しているわけではありません」

同社のメタバース入社式では、新入社員のアバターの頭に『花の種』が乗っています。そして、入社式に出席し、メタバース空間でアート作品を見て回ったり、シニアパートナーの話を聞いたりするにつれて種が成長し、最後に花が咲くという仕掛けが用意されています。

「これは、新入社員の皆さんを種に見立て、PwCの中で成長してほしい、花のように咲いてほしいという願いを込めたものです。1人ひとり違っていいというメッセージを込めて、花は好きなものを選べるようになっています。メタバースでないと表現できないことは何か、物理的に会わなくても体温が伝わるコミュニケーションのあり方を日々試行錯誤しています」(奥野氏)

■ヘッドセット3,000台を導入して大規模社内イベントを実施

さらに、2022年6月には3,000台のVRゴーグルを用意して希望する社員全員に貸与したうえで、3日間にわたるメタバース空間での社内イベントを開催しました。

「コンサルタントにとってデジタルスキルは必須になっており、今後はメタバースやWeb3の技術も求められるようになってくると思います。そうなったときに、実際にVRなどを利用したことのないコンサルタントがメタバースのコンサルティングをすることはできないので、全員で体験できる機会を設けることにしました」(奥野氏)

■9割近くの企業がメタバースをチャンスと捉えている

続いて、同社が企業を対象に実施したメタバースに関する大規模調査の結果も紹介しました。まず、『メタバースをビジネスチャンスとして捉えるか』という問いに対しては、87%の企業がチャンスだと回答。

また、メタバース活用の実行状況を問う質問では、38%が活用を推進もしくは検討していると回答。そのうちの約半数が1年以内にメタバースを活用したビジネスを実行すると答える結果になりました。

「この1年くらいで、もともとメタバースに親和性が高いゲームやコミュニケーションツールなどの企業以外からも、さまざまなサービスや取り組みが出てくるのではないでしょうか」(奥野氏)

一方で、導入する目的が明確化できない、費用対効果が説明できないといった点に課題を感じているという声も挙がっていることがわかりました。そのため、「今後、企業がメタバースをどう利益に結びつけていくのかは真剣に検討しなければならない」と奥野氏は話します。

■参入の理由

これらの背景を踏まえ、PwCコンサルティングがメタバース支援サービスを提供するに至った経緯について、奥野氏は5つの理由を挙げます。

「まず、メタバースはデジタル体験を通じて人々の価値観を変える力を持っていると思っています。アバターを使うことで外見が意味をなさなくなり、外見に起因する差別がなくなることは大きな変化です。また、誰もがクリエイターになれる可能性があることも、大きな社会変革の可能性を秘めていると考えています」

そして、企業のバリューチェーン全体が大きく変わる可能性もあると言います。たとえば、建設デベロッパーが商業施設を建てるときに、メタバース空間で先に施設をオープンして人の動きなどのフィードバックを得てから実際の施設の建設に着手する流れができるなど、劇的なパラダイムシフトを起こす可能性があると奥野氏は指摘します。

さらに、産業構造自体も大きく変化する可能性があると話す奥野氏。近年、価値観が『モノからコトへ』変化していると言われていますが、メタバース時代には、さらにその次の段階に進むと言います。

 

「今後は『コトから叶うへ』に変化すると考えています。ユーザーは、その人が一番体験したいと思うものが手に入れば、そこにどんな業界が関係していても気にしません。すると、これまでは提携することのなかった業界同士が手を結んで新しいサービスを提供していくなど、かなり大きな構造変化が起きると予測しています」(奥野氏)

さらに、税理士法人や弁護士法人へのコンサルティングを手がけてきたことを生かし、NFT活用などにあたっての税制面での支援を実施できること、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた『Society5.0』はメタバースとの相性がよく、その観点からも大きな可能性を秘めていることもメタバース支援業務への参入理由に挙げました。

「具体的には、業界動向や普及シナリオを予測なども含めた『理解する』、達成すべきビジョンと成功基準を明確にして、優先順位を決める『目的を定める』、アジャイルなどのアプローチでいち早くビジネスモデルを確立する『実行する』のサイクル全体を通して、企業のメタバース導入を支援していきたいと考えています」(奥野氏)

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