アーティストが置かれる環境は大きく変化

アーティストやクリエイターをとりまく環境の変化について、天野氏はこう話します。

「企業に所属せずに様々な形態で働きやすくなったことは大きいですね。ただし、集団で一つのものを作り上げる方法のすべての人がフリーランスで仕事をするわけではなく、プラットフォームやシステムなどサービスを動かす側の人は企業に所属して、その中で表現活動をする人は個人で活動するなど、立場によって選択が変わってくる部分はあると思います。とはいえ、コンカレントパイプライン(同時並列)で開発を請け負うことはフリーランスでも可能となってきていますので、本当に自由になってきたと感じます」

さわえ氏は、アバターでのコミュニケーションが許容されやすくなったことを変化として挙げます。

「私たちの会社では、6、7割のメンバーがアバター姿でハンドルネームを使って仕事をしています。でもコロナ禍前は、クリエイターが作品をプレゼンするときなどは、リアルな姿で自分の声をそのまま使って人前に出る必要がありました。自分の姿にコンプレックスを持っている人なら、そこでリアルな体がじゃまになってしまうかもしれません。デジタルの空間を活用すれば、クリエイターが自分で作ったものを、どういう場所で、どんな姿で、どんな声で届けるかまで決めることができます。これはすごく大きいと思っています」

さわえ みか 氏
株式会社HIKKY COO/CQO

また、せきぐち氏は、「国境がないフィールドで挑戦できるようになったことはアーティストにとっては大きなチャンス」としつつ、トレンドを追いすぎることには注意が必要だと話します。

「たとえばNFTで今売れているトレンドを追うために、自分の作品を壊してそちらに寄せてしまうなどすると、長い目で見るとすごく危険だと思います。自分たちが何をするべきなのか、何を守るべきなのかを大事にして、目まぐるしさに流されていくことがないように気をつけなければと感じています」

せきぐち あいみ 氏(スクリーン)
VRアーティスト
長田 新子 氏(ステージ左)
一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長/ Metaverse Japan 代表理事

これまで、アーティストが収益を得る手段の大半はクライアントワークでした。せきぐち氏は「NFTなどが普及したことで、作品そのもので収益を得られるようになったことも大きな変化」だと語ります。

「もちろん、クライアントワークも楽しく取り組ませていただいていますが、自分が作ったものに対して直接マネタイズできるのは、デジタルアーティストにとって革命的なことです。“こうしたらお金になる”ではなく純粋に本当にいいものを追いかける機会が与えられことは、大きな転機だと感じています」

■アーティストやクリエイターをどうエンパワメントする?

このセッションのテーマでもあるアーティストやクリエイターのエンパワメントについて、具体的にはどのようなアプローチが必要なのでしょうか?

「私が相談を受けたときは、個人のアーティストであれば、考えるよりも今すぐアクションを起こして新しいものを模索することをおすすめしています。ただし、企業の場合はそうはいかないこともあると思います。その場合、いきなりNFTやWeb3に参入するのではなく、まずはメタバース空間で既存の通貨でやりとりするような取り組みに挑戦するのがよいと思います。そういった意味で、さわえさん達が取り組んでいるバーチャルマーケットはすごく適した場所だなと感じています」(せきぐち氏)

また、天野氏は、クリエイターを支えるためのビジョンとして「場づくり」を挙げます。

「Web3については、今はどうしてもロジックや構想の部分が先行していて、コンテンツがおろそかになっている気がします。それを解消するために、ブロックチェーン技術を正しく理解しながら​​コンテンツにきちんと置き換えて、いろいろな人に遊んでもらえる場づくりをしていきたいと考えています」

天野 清之 氏
面白法人カヤック メタバース専門部隊 事業部長 / カヤックアキバスタジオCXO

■メタバースは人類にとってのエンパワメント

さわえ氏は、アバターでコミュニケーションをとることのメリットについても強調します。

「会社の若い人と話すときに、お互いアバターの姿だと対等に意見をぶつけてくれると感じます。ただし、アバターが絶対に正義というわけではないので、誰に向けてどう発信するかを考えたうえで選ぶことが大切だと思います。“ともかくメタバースをやっておけばいい”みたいにならないように注意することは必要ですね」

せきぐち氏は、「アーティストだけでなく、人類にとってメタバースはエンパワメントが大きい」と話します。

「現実空間で大きな建物を作って常設したら膨大なコストや環境負荷がかかります。でも、メタバースなら個人でも美術館を設置でき、世界中の人に来てもらうことができます。しかも、アバターで人の格差も補えますし、地域が違っても同じ教育を受けることができる。さらに、年をとってもクリエイティブができるし、旅行にも行けます。人類にとって開けるものがとても多いと感じています。だから、アーティストはもちろん、すべての方にぜひメタバースに関わっていただけたらなと思っています」

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