いかに資金調達をするかが課題

このセッションでは、「産業のメタバーストランスフォーメーション」をテーマに、そのために必要とされていることや、資金調達の課題などについて議論が行われました。

馬渕 邦美 氏:PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員(左)
金出 武雄 氏:カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授/京都大学高等研究院 招聘特別教授/産業技術総合研究所 名誉フェロー(中央左)
豊田 啓介 氏:東京大学 生産技術研究所特任教授 建築家(中央右)
沼倉 正吾 氏:Symmetry Dimensions Inc. CEO Founder(右)

最初に沼倉氏が、「PLATEAU」や「デジタル田園都市国家構想」など、国の補助金やバックアップで進んでいるプロジェクトとスタートアップの関係について、次のように切り出します。
「スタートアップ業界において国の事業はベンチャーキャピタルから評価されにくい。そのような状況のなかで、いかに資金調達をしてプロジェクトを進めていくかという点に悩みを抱えているスタートアップが多くあることが課題となっています」
この課題に対して金出氏は「カーネギーメロン大学では1980年にロボット研究所を作りました。システムで動くロボットを作ることは工学として成り立つとして、企業が出資したことでロボット研究所は成功を収めました。メタバースでも同じスタイルがありうるのではないかと思います」と話しました。
また、スモールビジネスに対して研究開発費用の支援を行うSBIRが日本でも出てきていますが、海外に比べるとまだ足りていない状況です。
これについて金出氏は「具体的な目標や価値あるプロジェクトを持った企業がお金を貰えば成功しますが、なんとなく面白い技術だからやってみようという企業はSBIRで生きていくタイプに陥りがちです」と話し、沼倉氏も「スタートアップは国や自治体のバックアップを期待しています。それがないと社会基盤を作るサービスはやり難い。これから難しい問題がたくさん出てくるのではないかと考えています」と意見を述べました。

金出 武雄 氏

日本に不足しているイニシアチブ型プロジェクト

次に金出氏はアメリカの事例として、イニシアチブ型のプロジェクトについて「ある分野に限定して、競争的に同じようなことをやっている複数のグループに対してお金を出すのがイニシアチブ型です。日本にはこのイニシアチブ型が足りていません」と話しました。
沼倉氏も「日本は2016年にSociety5.0を掲げました。その指針が前提としてあり、その中のさまざまなジャンルに興味を持った人がお金を投じるのが望ましいのかもしれません」と語ります。
イニシアチブ型のプロジェクトが盛んに行われているのが中国です。
「中国は各ドメインに自由競争をさせて促成栽培して、生き残ったところに集中投資をする形で最先端事業を作っている気がします。貪欲だけど迅速に促成栽培ができるインキュベーションの形があっても良いと思います」(豊田氏)

豊田 啓介 氏

キーワードはコンバージェンス

産官学連携によって国がテクノロジーに対してフレンドリーになっている傾向について金出氏は「大学と企業、産学の観点でいうと大学が基礎研究で企業が応用研究という思い込みが問題です。例えばChatGPTは企業が先導した事例だと言えます。逆に大学から出た具体的なものが企業によって成功する例もある。この思い込みをなくすことが産業基盤強化には必要です」と強調しました。
そして、メタバースを社会に使うためには、さまざまな観点をコンバージェンス(収束)していくことが必要だと金出氏は話します。
豊田氏も「人材が循環している状態があって、初めてメタバースの使い方と価値構築、技術的な人材が社会に供給されるので、コンバージェンスが価値モデルになるような産業側の構造や社会的常識を作ることが大事」と同意しました。
さらに沼倉氏も「日本はコンバージェンスが始まったばかり、いろいろなジャンルの人が創発することが文化としてできていないので、メタバースに関しては色々な業界、産業、データをコンバージェンスすることがこれからのポイントになる」と、メタバース成功のキーワードはコンバージェンスであることで一致しました。

沼倉 正吾 氏

最後にコンバージェンスの創発に必要なネクストステップについて、それぞれの意見が述べられてセッションは終了しました。
「Metaverse Japanとしてもいわゆるコンソーシアム型はたくさんありますが、そこから次になかなか移動しないので、もっと踏み込んで研究開発ができる仕組みを広める動きが大事です。実際に動く組織や指揮系統、予算を作る動きがいろいろなところで出てくると良いと思います」(豊田氏)
「我々もスタートアップもメタバースをビジネスにどう確立していくかが直近のテーマになります。PoCをやめて、きちんとお金を生み出すことが絶対に必要です。本当の意味でサービスをどう作っていくかが重要なので、そこに注力していきたいと考えています」(沼倉氏)
「日本が今一番直面している問題は大震災への対策です。大震災のときにメタバースがどういう役割を果たすかをバチッと提言できれば、この分野をイニシアチブとしてやっていく推進力になります。そういうスタディグループを作って話をするのも良いと思います」(金出氏)

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