「メタバースはインフラ」が理解されていない

このセッションでは、日本がメタバース産業立国へと進化していくために何をしていくべきか、日本の勝ち筋はどこにあるのかについての議論が行われました。

馬渕 邦美 氏:PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員(左)
玉城 絵美 氏:H2L, inc. 代表取締役社長 琉球大学工学部教授(中央左)
豊田 啓介 氏:東京大学 生産技術研究所特任教授 建築家(中央)
小宮 昌人 氏:JICベンチャーグロース・インベストメンツ イノベーションストラテジスト(中央右)
小玉 祥平 氏:三豊市教育センター長(右)

日本の勝ち筋はどこにある?

小宮氏はメタバースの現状について、「自治体でメタバースの取り組みが行われたり、産業界ではデジタルツインとメタバースの融合が進んだりと実装段階に入っている。個々の技術では世界に通用するレベルのものも出てきた」と説明。
一方で、それぞれの企業や自治体が個別に動いているために非効率な状況が生まれていることや、新しいことに取り組む企業や自治体とそうでないところで格差が生じているといった問題があることを指摘。
それを踏まえて、「日本の勝ち筋をどこに定めるかの議論を進めること」「具体的なロールモデルを生み出すこと」「国際標準化やルールメイキング、それに必要となる人材育成のしくみを整えること」の3つを必要な点としてあげました。

小宮 昌人 氏

豊田氏は、本イベント直前に話題となった「メタバース関連事業の9割が失敗している」というニュースに触れ、「そもそもメタバースは、単独で成立するようなタイプの商品ではない」と指摘。
「メタバースはあくまで高次元の共有環境であり、社会インフラです。そのインフラをどう作るかの問題と、その上で動くアプリケーションは別のレイヤーの話です。ひとつのプラットフォームで複数のドメインやサービスをいかに扱えるようにするかという社会全体、産業全体としての大きなビジョンがあって初めて、効率化などの実務的な成果につなげることができます」(豊田氏)

豊田 啓介 氏

玉城氏は、「インターネットはビジネスで使われることで一気に普及していった。それを考えると、メタバースの普及でもビジネスの要素はどうしても必要になる」と指摘。
そして、すでに活用が広まりはじめている取り組みの例として、工場のデジタルツイン化を挙げます。
「工場のデジタルツインは、ある程度生産性が見込めてマーケットも安定し始めています。そこからどうメタバースに変換して拡張していくか、より効率を上げていくためにはどうするかを考えることは必要な道筋のひとつだと考えています」(玉城氏)

玉城 絵美 氏

小玉氏は自治体の立場から、「すでに多くの人がメタバースのなかで活動をしていることを関係者に認識してもらうことが必要」と話します。
「たとえば学校現場でメタバースを活用する場合、大人が使い方を教えないといけないと考えがちですが、ゲームを含めたメタバースで遊んでいる子どもはすでにたくさんいます。子どもたちがすでにやっていることを、どう学びにつなげていくか、どうやってスキルとして形にしていくかを考えることが必要です」(小玉氏)

地方自治体ならではの強みを生かす

では、日本の強みを生かしていくために、具体的にどんな取り組みが必要になるのでしょうか? 小玉氏は、「事例を作っていくにあたり、地方には可能性がある」と指摘します。
「地方は都市部に比べてコミュニティが密で、異なる産業同士の住人がつながり合っていることも多いです。それらは地方のネガティブな面として見られがちですが、強みにもなると思います」(小玉氏)

小宮 昌人 氏

玉城氏も、地方のコミュニティの強さがプラスに作用した例として、琉球大学の医学部が行った取り組みを紹介しました。
「トイレにセンサーを設置して、排尿排便の記録から健康状態をフィードバックするシステムの実証実験を行ったとき、沖縄の久米島では地域のほとんどの方がを設置を受け入れてくれたという事例があります。これは都市部ではあり得ないことだと思います。地方にはそのようなよさもあるので、ロールモデルを作る意味ではもっと注目されるべきだと感じています」(玉城氏)

産業立国を進めるための次のステップは?

セッションの最後には、これらの議論を踏まえてMetaverse Japan Labとして取り組むべき次のステップについても話し合われました。
「なぜそれに取り組むのかのビジョンが明確にすることが大切だと思います。これまでにはなかった可能性が広がることをしっかり見える化して、そこから個別のケースにつなげていくこと、総論から個別の取り組みに落とし込んでいくことが大切だと考えています」(豊田氏)
「生々しい話になってしまうけれど、確実にお金儲けができるシームレスなロールモデルを作り、それを提示していくことが必要だと思います。たとえば工場のデジタルツインなら、それをメタバースに発展させて消費者とつながっていくことで金銭的価値を生み出せる例をしっかり見せることが、企業や消費者を動かすことにつながるはずです」(玉城氏)

「ひとつの成功モデルを集中的に作ることが重要だと考えています。自治体ワーキンググループでも、地方自治体や民間企業をいろいろなプレイヤーとつなぎ、ひとつひとつの事例をしっかり作り、それをルールづくりや国際標準化につなげていけたらと思っています」(小宮氏)
「新しいことに取り組むときは論理的な話だけでは説得しきれないことも多く、人と人とのつながりの中でコンセンサスを取り、意思決定をしていくことも必要になります。そういう意味でも地方には強みがあると思っています。地方のよさを生かしながら、具体的な事例をひとつでも増やしていきたいと思っています」(小玉氏)

 

 

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