メタバースのルールメイクにおける現状の課題は?

このセッションでは、メタバースのルール形成や標準化の支援、国際標準化およびルール形成に向けた議論が行われました。

馬渕 邦美 氏:PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員
江崎 浩 氏:東京大学 教授情報理工学系研究科
玉城 絵美 氏:H2L, inc. 代表取締役社長 琉球大学工学部教授
河合 健 氏:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー

まず河合氏は、ルールメイクにおける現状認識と課題について「メタバース上で提供されるコンテンツやサービスはこれまでにはなかった新しいものなので、既存の法律上で違法となるか否かが不明なところが多い」という見解を示します。
そのため、コンテンツ提供主体およびプラットフォーマー、そして利用者のそれぞれにおいて、わかりやすいルールメークを行うことが必要だといいます。また、メタバースの規格が乱立している現状については、「オープンなメタバースを構築するにあたり、事業者ごとにルールが乱立している状態はユーザビリティに問題が出てくる。標準化する過程で日本がどういう立ち位置を占めていくかも考えなくてはいけない」と言及します。

ルール形成の促進に必要なこと

メタバースの種類や特性、立ち位置は非常に多様で、ユーザーも子供から大人、高齢者まで多岐にわたります。そのため、それぞれの特性に応じたルール形成・ガバナンスが必要になると河合氏は話します。

「基本的には、ソフトロー(業界団体のガイドライン等)を中心としたアプローチを行い、ハードロー(法規制)に関しては、メタバース上で行われる不法行為などの謙仰的かつ必要性の高いものに限定するのが有効」と河合氏は説明します。さらに、法規制が遅れることを前提とし、ユーザーによるレーティングなどプラットフォームのガバナンスを確認できる仕組みも重要なポイントになるといいます。

河合 健 氏

また、ルールを形成していくうえで、日本が一定の立ち位置を占めていくことを考慮すると、海外のルールメークとのイコールフッティングも必要になります。
「ルール形成の内容としては、『知的財産の保護と利用の枠組み』と『消費者保護(未成年保護を含む)の枠組み』の2つが重要なポイントです。ルールを形成する際には、内閣府の官民連携会議の動きと上手く連携しながら進めていく必要があります」(河合氏)
具体的には、肖像権に関する論点や、メタバース内の二次的・三次的創作コンテンツに関する論点を、今までの知的財産の概念にそのまま当てはめてもよいのかどうかがポイントとなります。また、バーチャルツインに関して河合氏は、「どこまでが著作権侵害になるのかを整理する必要がある」と話します。

国際標準化における日本の戦略は?

続いての話題は国際標準化について。日本がオープンメタバースのスタンダードの一部を担うためには、オープンソースプロジェクトへの積極的な関与が必要です。
そこで、MVJが重点項目の一つとして挙げるのが、アバター規格の国際標準化の推進です。「日本発のVRMフォーマットは日本が優位性を築くために重視すべき要素なので、世界に向けたプロモーションを行っていく必要があります」(河合氏)
加えて、標準化人材の育成や、戦略策定や企画開発・交渉などの活用支援などの取り組みも重要となります。このほかに、メタバースと親和性が高いWeb3に関わる国際標準化推進やメタバース関連NFTの規格標準化なども、MVJの重点項目として挙げられています。
国際標準化を実現するためには、 Metaverse Standards Forumなどの海外機関との連携も不可欠です。さらに、「世界経済フォーラムやオープンメタバースアライアンス for Web3といった、メタバース関連以外の国際的組織の動きにも注目していく必要がある」と河合氏は言います。

「インターバース」は日本が優位性を持てる領域

バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備について、玉城氏は「インターバース」をキーワードに次のように話します。
「フィジカル空間のユニバースと、サイバー空間のメタバースの中間に位置するインターバースでは、人の情報や環境の情報をどのように安心・安全に使っていくのかが大きな課題です。しかし同時に、これらは日本が優位性を持てる領域でもあります」

玉城 絵美 氏

自身の研究領域である「固有感覚」について、「アバターを自分の身体として所有している感覚が向上し、メタバースにより没入できる」と話す玉城氏。一方で懸念点もあるといいます。
「ユーザーがメタバース空間に没入しすぎると、現実世界で起きている火事や強盗の被害といったトラブルに気付けないなどのリスクが生じる恐れもあります。メタバースは素晴らしい技術ですが、ユーザーが安心・安全に使っていくためには、官民が連携して、研究のエビデンスとして国際標準化していく必要があると考えています」(玉城氏)玉城氏の話を受けて江崎氏は「官民連携」の課題を次のように話しました。
「近年のWeb3などでは、『ステークホルダーキャピタリズム』が重要だといわれています。ここでいうステークホルダーとは、国と産業とユーザーのこと。ユーザーの意見をどうやって反映させるのかが重要なポイントになります。日本でいわれる『官民連携』という言葉にはユーザーがいないのが問題。この環境を変えなければいけません」

江崎 浩 氏

ルール形成・国際標準化を実現するために

最後に、ルール形成・国際標準化を実現するために、どのようなアプローチをするべきかについて、それぞれの意見を次のように語りました。
「MVJとしては今回提言した内容をさらに深掘りし、より深い内容の提言につなげていきたいと考えています」(河合氏)
「まずはユーザーが大切なので、ユーザーとのバランスを見ながらルールを形成する必要があります。安心・安全を守るためには、許可制よりもある程度禁止項目での規制が必要だと思っています。そして同時に、ユニバースの中でお金を稼ぐ活動を行いやすいルールを作っていくことも必要だと思います。新しい資本主義の期待を込めた国際標準化を進めていければと思います」(玉城氏)
「世の中にないマーケット作りには積極的にチャレンジしてもらいたいと考えています。皆さんからも応援してもらえると非常にありがたいですね」(江崎氏)

さらに、セッションの後半には、Metaverse Standards ForumのNeil Trevett 氏からのビデオメッセージも披露されました。
Neil氏は「メタバースは、Webの接続性を組み合わせ、人工知能やGPU処理など、複数の破壊的テクノロジーを連携させることで実現する」としたうえで、同時に「Web上のアプリケーションを超えて経済を構築する機会でもある」と話します。

Neil Trevett 氏:Metaverse Standards Forum Chair/Vice President Developer Ecosystems・NVIDIA President・Khronos Groupv

「メタバースのこれらの側面は相互運用性に依存し、どの標準化団体よりもオープンな相互接続性を必要としています。そのために必要な規格を作るには何十、何百もの規格団体が必要なのです。Metaverse Standards Forumはすべての標準化団体が協力し、より広い業界とコミュニケーションをとるための場所です。私たちは、すべての標準化団体や企業に中立で歓迎されるベンダーであろうとします。
Metaverse JapanをMetaverse Standards Forumのメンバーとして迎えることができたのは、とても誇らしく嬉しいことです。日本で行われていることや、そこから得られる洞察を世界のメタバースコミュニティに提供することです。オープンメタバースを構築するために協力し合うことを楽しみにしています」

 

 

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