バーチャル空間ならではの共創体験が可能

このセッションでは、教育現場におけるメタバース活用の現状やそのメリットについて、現場に携わる有識者が意見を交わしました。

佐藤将大 氏:学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長(左)/ 加藤直人 氏:クラスター株式会社 代表取締役CEO(中央)/ 長田新子 氏:一般社団法人Metaverse Japan 代表理事/一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長(右)

角川ドワンゴ学園が運営する“ネットの高校”であるN高等学校やS高等学校では、2021年にメタバースで学べる普通科を開設。VRゴーグルのMeta Questを生徒一人ひとりに配布し、さまざまな教育を提供しています。

「例えば、3D空間内で炎色反応の実験を行ったり、面接の練習をしたり、AIを活用して英会話を学んだりといったことを行っています。また、遠隔にいる友達とさまざまな体験ができるように、バーチャル体育祭やバーチャル修学旅行などのイベントも実施しています」(佐藤氏)

加藤氏も、教育でのメタバース活用について「バーチャル空間ならではの共創体験ができるのが魅力」と話します。

「たとえば修学旅行なら、Googleストリートビューを利用してVR空間内で世界の遺跡を巡った後に、宿に移動して枕投げをしたりといった形で複数日にわたって実施することで、“修学旅行らしさ”を出すこともできます」

さらに、最新の取り組みとして、ベネッセが実施する「進研模試」をメタバース空間内で受験できる試みも紹介しました。

「学校によっては、人を集められず、模試を実施すること自体が難しいケースがあります。今回の取り組みでは、そういった課題を解決することに加えて、空間内で生徒同士がコミュニケーションを図ることも可能です」(加藤氏)

メタバースのメリットは「ログ」にあり

続いて、生徒や保護者、教育機関それぞれにとってのメタバースを利用するメリットについても議論が交わされました。

生徒がメタバースで学ぶメリットを、佐藤氏は以下のように話します。

「私たちの学校は全国各地から生徒が入学してきますが、住んでいる場所によってはリアルなコミュニケーションを取る機会や、同じ趣味を持った友人とつながる機会がとても少ない生徒もいます。そういった生徒同士がバーチャル空間内でコミュニケーションをとることで仲良くなり、リアルで初めて会ったときにもスムーズに話せます。これはメタバースを介したからこそ実現できることだと感じています」

佐藤将大 氏

加藤氏も、佐藤氏の意見に共感を示しつつ別の観点でも生徒へのメリットがあると話します。

「テキストのみのコミュニケーションは自分の感情を正確に伝えることが難しい場合がありますが、メタバースならアバターのしぐさなど体を使って表現できます。視覚的な情報が限定されることで、視線恐怖症や表情恐怖症などの方にとってもコミュニケーションがとりやすいという研究結果も出ています」

加藤直人 氏

メタバースは比較的新しい技術ということもあり、親世代からは不安視されることも少なくありません。保護者の立場から見たメタバースのメリットとして加藤氏は、「データが残ること」を挙げます。

「リアルの教育機関の場合、どのような教育を実施しているのか把握しにくい部分がありますが、メタバースならすべてのデータのログが残ります。仮に何か問題があった場合でも、ログを遡って追跡できる点は大きいですね」

佐藤氏も「安全面でのメリットは保護者の方にぜひ届いてほしい部分」と話します。

「ネットが普及し始めた時代は、『ネットで知り合った人に会うのは危険』と言われていましたが、ログが残るという意味では、今はむしろネットのコミュニケーションのほうが安全と考えることもできます」

生成AIの普及で空間を作りやすくなる

加藤氏は今後のメタバースについて、制作者となる人の増加に着目して次のように話します。

「従来の3DCG制作には大きなコストがかかっていましたが、生成AIによってそのコストは大きく下がりました。動画などもそうでしたが、“作る側”に参入する人が増えると技術はより発達します。そういった意味で、生成AIはメタバースの進化において重要な役目を果たすと思っています」

佐藤氏も「3D空間が作りやすくなり、多くの人がその空間を利用すれば、蓄積されるデータも増えていく。すると、そのデータを教育にも生かせる」と期待を寄せます。

セッションの最後には、メタバース事業で今後チャレンジしたいことについてそれぞれが次のように語りました。

「私たちは生徒向けにバーチャル空間を提供しています。生徒自身が自分の居場所を作り上げ、居心地のよい学校空間を作っていけるようにサポートしていけたらと考えています」(佐藤氏)

「最もチャレンジしたいのが、データの活用です。具体的には、clusterに蓄積されたデータを活用して、非認知能力を図ったり、向上させたりする取り組みにチャレンジしていきたいです。その取り組みをメタバースの教育にも還元できたらと考えています」(加藤氏)

TOP