圧倒的な解像度の高さがVision Proの魅力

このセッションでは、2024年6月に日本でも発売が開始されたApple Vision Proと、それによって実現される空間コンピューティングの可能性について語られました。

中馬和彦氏:KDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部本部長(左)/ せきぐちあいみ氏:VRアーティスト(中央)/ 三宅陽一郎 氏:東京大学生産技術研究所特任教授(右)

会場では、せきぐち氏がApple Vision Proを装着してアート制作を実演。指先を使って線を描き、指先のタップで線の太さの変更や取り消しといった操作を行ったり、左手をパレットとして使って色を変えたりと、すべてをハンドトラッキングの操作だけで行う様子を披露しました。

「今までのデバイスのハンドトラッキングは、描いている途中で線が途切れたり誤認識があったりして実用的ではありませんでした。Apple Vision Proはそういったことがまったくなく、スムーズに描けます」(せきぐち氏)

さらに、圧倒的な解像度の高さとカメラからの画質のよさがApple Vision Proの大きな強みだと語り、「今までもさまざまなデバイスを使ってきたけれど、Vision Proには本当に感動した」と絶賛します。

リアルとデジタルが地続きに

中馬氏は、XRデバイスの普及という観点でApple Vision Proの登場が契機になると予測します。

「スマホが出てきて世の中が変わったように、XRデバイスも“本命”を待っていたところがありましたが、高い解像度と操作性を備えたApple Vision Proが登場しました。ここに空間コンピューティングをかけ合わせることで世の中が変わると思っています」

中馬和彦氏

そして、その先にあるのはリアル空間の情報がパーソナライズされた世界だといいます。

「リアル空間では皆が同じ街を見て、同じものを触って同じ空間を共有していますが、これはずいぶん不自由です。たとえば、ネットの世界でAmazonのおすすめ商品に表示されるものが人によって異なるように、リアル空間でもパーソナライズされた情報が目の前に表示されるのが当たり前になっていくと思います」(中馬氏)

そして三宅氏も、「リアルとデジタルは今後地続きになっていく」といいます。

「これまでは、リアルというのは物理空間、デジタルというのはPCやサーバーの中と区別されていました。空間コンピューティングが実装されるとそういった区別がなくなり、両者がまとまって新しい現実になると考えています」

たとえば、社内の他のメンバーに伝言するためのメモをオフィスの空間上に置いたり、3Dモデルを表示しながら会議をしたりするようになるとのこと。デジタルで人々が便利だと感じていたものが現実世界にももたらされ、それがシームレスにつながる時代が来るといいます。

三宅陽一郎 氏

さらに、ゲームについても変化が訪れ、現実空間とゲーム空間がつながる時代になると三宅氏は予測します。

「ゲームは本来、外で行っていた遊びをデジタル空間に持ってきたものでしたが、これからは現実にオーバーレイされた形で遊ぶようになると思います。たとえば、現実の街で落書きをしたら問題ですが、オーバーレイされた空間であれば、渋谷の街で落書きコンテストを開くといったことも可能です。空間コンピューティングの普及が、新しいゲームのあり方を提示すると思っています」

「眼鏡型デバイス」の登場を待つ必要はない

デバイスの進化について、せきぐち氏は「現実にオーバーラップしていくという部分で、Apple Vision Proはベストだと感じている」といいます。

「デバイスが眼鏡くらいのサイズになるのを待っている人もいるかもしれませんが、眼鏡のフレームの外はけっこう視界に入ってしまいます。もちろん眼鏡型にもよさはありますし、今のApple Vision Proもまだ完璧ではないですが、現実を変えてくれるデバイスになるのは結局、ビデオシースルーのゴーグル型だと思っています」(せきぐち氏)

せきぐちあいみ氏

三宅氏は、より広い用途を想定して「眼鏡型デバイスが登場すればXRが流行るという信仰のようなものがあるけれど、使うデバイスはスマホでもラップトップでも構わない」と話します。

「もちろん、ゲームであれば完全に没入できたほうがいいですが、ある程度現実が見えている状況で部分的に空間コンピューティングを使いたいケースもあります。デジタル世界が現実に溶け込む度合いは、もっと気軽にコントロールできるのではと思っています」(三宅氏)

多くの人の人生を広げてくれるツールになる

最後に、せきぐち氏と三宅氏が、空間コンピューティングが普及した先の世界を次のように語りました。

「本当に魔法のような世界が現実になっています。アーリーアダプターだけが注目している時期は一瞬で終わると私は感じています。高齢者や障害のある方、寝たきりの方が他の人と同じように働いたり走り回ったりできるようになり、あらゆる人の人生を広げてくれるツールになるはずです。Apple Vision Proは本当に人生を拡張してくれるものだと思っています」(せきぐち氏)

「20世紀はスクリーンの時代でした。1950年年代からずっと人間はコンピューターのスクリーンの前に張り付いてきましたが、それがようやく終わるのだと思っています。私が今日、せきぐちさんのパフォーマンスを見て感じたのは、すごく身体を使っているなということ。これまでの私たちはコンピューターを使うためにいわば身体を失っている状態でした。スクリーンから解放されることで、人間本来の全身を使うことが復活し、より自然に人間とコンピューティングが融和する時代がやってくると思います」(三宅氏)

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