メタバースの活用はまだ限定的

このセッションでは、DNPが取り組む「XRコミュニケーション」や、新サービス「ロールプレイング型協働メタバース」について、そのメリットや可能性が語られました。
リアルとバーチャルを連動させることで、新たな体験価値と経済圏の創出を目指「XRコミュニケーション」に注力するDNP。これまで「地域共創型XRまちづくり」「コンテンツコミュニケーション」「デジタルアーカイブ」「マーケティング支援」という4つの事業領域において発信を行ってきました。

山川 祐吾氏:大日本印刷株式会社 ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 第1グループ リーダー

「XRコミュニケーションの中でサービスやプロダクトを提供しながら、メタバースは今後も多種多様な用途に活用できると実感している。しかし現状は、まだまだ限定的な使われ方にとどまっているように思う」と話す山川氏。
山川氏によれば、メタバース導入を決めた企業や自治体においても、静止画や動画を見るショールーミング型のサービスが大半を占めている状況だといいます。
「今後、いかにメタバースの利用者同士が積極的なコミュニケーションを行えるかどうかが重要になると考えている」とも語り、エンタメ的な要素で活用されることの多いメタバースが「遊び」と見なされてしまう点についても指摘。
3D空間ならではのリッチな体験やアクティブなコミュニケーションを使った空間といった「メタバース」の特徴を最大限に活用することで、教育やビジネス方面での可能性が広がると語りました。目的に応じた活用が可能な「目的特化型のメタバース」の重要性を強調します。
「DNPでも自治体向けに、①魅力発信②産業振興の促進③相談業務④コミュニティという4つの目的に応じたサービスを提供しています」

働き方や学び方の多様化に適した環境整備が必要

目的に特化したメタバースの新たな活用が期待される理由として「働き方の多様化など社会的なニーズの高まりも背景にある」と山川氏は続けます。コロナ禍が落ち着き、オフィス回帰の流れが強まる傾向が見られるものの、リモートワークを継続する企業も一定数存在すること、また在宅勤務利用者の満足度が高いことなどをスライドや映像データを交えて紹介。


若年層の働き方に関する価値観の調査結果を提示し、未来を担う若者にとってはリモートワークが当たり前になっていくとの見方も示しました。
「若い世代には場所だけでなく、勤務日数や時間、キャリアの部分でも働き方の多様化が進んでいくでしょう。多様化に適した環境整備、業務のDX化がますます必要になるはずです。加えて、価値観の多様化に伴い、企業と社員の繋がりもより複雑化し、それを支えるコミュニケーションの方法自体もアップデートが必要になると捉えています」

同社が 2021、2022年に手がけた「渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE」上でも新たな気づきがあったと話す山川氏。
仮想空間上で精密に表現した宮下公園を舞台とした謎解き体験イベントを開催。実在する宮下公園内の景観や施設を生かしたバーチャル空間に最大4名で入り、互いにボイスチャットでコミュニケーションしながら知恵を出し合って謎を解くというものです。

「リアルとバーチャルが連動した新たな試みとして数万人の方の利用がありました。仲間同士で協力して謎を解くことがチームワークにつながったという声もあり、メタバース空間で楽しみながら、共通の時間を過ごすことでエンゲージメントが高まったり、互いへの理解が深まったりすることが見えてきました」

「ロールプレイング型協業メタバース」の特徴

「場所や時間の制約を受けず、多様なライフスタイルに応じた持続的な就業や学習機会の提供が必要であるとの社会的ニーズ、そして仲間と楽しみ協力しながら、目標を達成することでエンゲージメントが高まるという事例からの気づきの2つのポイントが、DNPの新サービス『ロールプレイング型協働メタバース』の誕生へと結びついた」と山川氏は話します。

このサービスでは、参加者がそれぞれの役割(ロール)を担い、シナリオに沿って協力し合いながら共通の目標・目的達成をめざします。その過程で「理解」と「共感」を促し、高い学習効果を得られるモデルとなっています。

ロールプレイング型協働メタバースには、3つの特徴があるといいます。1つめは、全員共通で表示される情報以外は各ロールで情報や設問が異なるため、意図的に各参加者同士の情報格差を生み出されるというものです。
「それぞれが積極的なコミュニケーションを取り、自らの情報を出し合わないと正しい答えにたどり着けないため、参加者同士が協働することが必須条件となります。よりアクティブな学びに繋げることが可能です」

そして2つめの特徴が、シナリオ対応ができることだと続けます。
「チュートリアル、シナリオ体験、フィードバック、この大きく3つのブロックに分けてシナリオ進行を行い、このテンプレートは広範に使えるので、教育やワークショップといったものから謎解きイベントみたいなものに活用できます」

さらに3つめに、チケット機能、チャプター制限時間機能など参加者の体験価値と学習効果を高める機能の充実性を挙げました。
1グループ4名を基本に、同時に10グループまで体験できるということで、大規模な企業研修・イベントでも活用ができると山川氏。場所や時間の制約を設けずに行えるメリットが得られると話します。

「DX人材育成研修はもちろん、企業や自治体、ビジネス用途を中心に教育にも活用できると考えています。例えば地域の魅力を知る謎解きや地域の防災教育、金融教育、子どもたちに向けた職業体験までさまざまなユースケースを想定しています。地域活動に参画をしたいと思っている生活者が、ファシリテーターの役割を担うといった活用法も想定しています」
山川氏は「DNP一社だけではなく、業種や業態、業界の垣根を越えて新たなメタバースのあり方を共創していきたい」と締めくくりました。



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