ヘルスケアとメタバースの共通課題

このセッションでは、ヘルスケアやウェルビーイングの領域でのメタバースを活用していくにあたっての課題や、期待されるユースケース、必要なガバナンスの検討などについてのディスカッションが行われました。

藤田 卓仙 氏:慶應義塾大学医学部 特任准教授 世界経済フォーラムC4IRJ(左) 大塚 勝 氏:デジタルユニット ジャパンヘッド(中央) 鳴海 拓志 氏:東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授(右)

「ヘルスケアでは特に個人の健康情報をどう扱うかが大きな課題で、その領域とメタバースは相性がいいんじゃないかと思います」と語るのは慶応義塾大学医学部に所属されている藤田氏です。
「メタバースの法整備に加え、ヘルスケアの領域もルールメイキングをどうしていけばいいか考えなければなりません。特にヘルスケアの場合は、プライバシーだけではなく、人権の確保が求められます。オンライン診療などもやってみないとわからない点は多いので、課題を探っていく段階だと言えますね」

藤田 卓仙 氏

社会的にもメタバースへの関心が高まっており、世界経済フォーラムでもメタバースのルールをどのように作っていくべきか、ガバナンスの議論がされました。
「ヘルスケア×メタバースに限らず、メタバース全般に対して議論がされつつあります。ガバナンスやルールの設定、ガイドラインの調整をするためにはユースケースを蓄積させていかなければなりません。そういった取り組みを続けていくことでメタバース全般が使いやすくなっていくのではないでしょうか」(藤田氏)
メタバースは先進的な技術ゆえ、アーリーアダプター層を中心に利用されています。しかし、高齢者や障害者でも使いやすいかどうかについては議論の余地があるでしょう。

さらに藤田氏は、ヘルスケア×メタバースの課題について次のように述べました。
「医療従事者でメタバースの技術に触れている人はごくわずかで、医療分野でメタバース人材をどのように担保していくかも大きな課題です。その上で個人情報や権利をどのように守っていくかは今後も検討していきたいと思います」

ヘルスケア×メタバースのユースケース

製薬会社の立場からヘルスケア×メタバースにどのような期待を寄せているかについて、大塚氏は次のように答えます。
「感染症に対するワクチンのように、新薬の開発において大きな期待を寄せています。デジタルツイン上で副反応を観察し、安全性を確保した上で新薬を届けられれば利用者も安心して利用できるのではないでしょうか」

大塚 勝 氏

また、バーチャル空間でできる医療従事者のトレーニングにも期待していると大塚氏は語ります。
「外科手術の技術を磨くためには実際に執刀しなければならず、多くの時間と経験が必要です。そのトレーニングをバーチャル空間で行えれば、高い技術を習得した状態で現場に出られる外科医が増えるのではないかと考えています」
すでにオンライン診療の分野ではバーチャル技術が活用されていますが、画面を通した2次元的な情報だけの診療には限界があります。メタバースのような3次元の技術を活用することで、実際の診療に近いレベルまで引き上げられるかもしれません。

また、東京大学大学院所属の鳴海氏は「東京大学の保健センターでは学生のオンライン相談にアバターを使っている事例があります」と紹介します。
「精神的に不安定な学生が対面で相談するのは難しい場合も多いです。けれど、オンラインで互いの顔がわからない状態にしたところ、受診率が上がったり調子が上向いた学生が多くいました」

鳴海 拓志 氏

アバターを使い、外出が困難な方でも利用できる形にすればより幅広く利用される可能性もあります。それだけでなく、アバターでの活動がその方自身のモチベーションを高める助けにもなると鳴海氏は言います。
「身体的な障害があったとしても、アバターを使って自己表現ができれば社会で活躍できると感じてもらえる事例がいくつもありました。今後のヘルスケアに役立つユースケースであり、まだまだわからないことが多いため重要なポイントになると思います」

ガバナンスの検討は未だ研究段階

最後に「どの段階でガバナンスの議論をした方がいいのか」という鳴海氏の問いに対して、藤田氏は次のように答えました。
「ガバナンスの検討は未だ研究段階で、国際的に定められたデータに準ずる必要があります。特に医療分野は繊細な取り扱いが求められ、データの管理にも細心の注意が必要です。新しい領域なのでどう取り扱うか課題を共有し、議論を深めていきたいと思います」


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