話題の「Apple Vision Pro」はどんな世界?

6月にAppleの開発者向けカンファレンス「WWDC」で発表され、世界中の注目を集めた同社のXRデバイス「Apple Vision Pro」。特別講演となる本セッションでは、現地でいち早くこのデバイスを体験した林信行氏が、体験会のようすや今後の可能性について語りました。

林信行 氏:フリーランス/ジャーナリスト・コンサルタント / 金沢美術工芸大学名誉客員教授、株式会社リボルバー社外取締役

Apple Vision Proは、先行する他のXRデバイスのように、装着してすぐに利用できるわけではないとのこと。視力の悪い人の場合、まずは検眼機を使って自分専用のレンズを作るところからスタート。その後、ヘッドセットを被り、視線による操作のためのキャリブレーション(調整)を行います。

「Apple Vision Proは目の動きを使って操作するのですが、これがすごく正確で、本当に自分が今見ているものを完全に認識して、思ったとおりの操作ができます」

その後、ヘッドセット右上部分に搭載されたデジタルクラウンを押すとホーム画面が出現。iPhoneでもおなじみのアプリのアイコンが並んだ画面が現れます。ホーム画面下部のバーを眺めた状態で指をつまむとウィンドウをつまむことができ、そのまま押せばウィンドウが遠くに移動、手前に引っ張れば手前に移動するなど、視線や手の動きだけで操作を行える点が大きな特徴です。

「HoloLensも指を使った操作を行えますが、それと比べてもかなり正確にジェスチャーを認識してくれます。しかも、目の真下くらいの位置で操作を行っても、下側のカメラでしっかり認識してくれます」
通常はリアルな景色の中にウィンドウが浮かんだAR的な表示となっていますが、デジタルクラウンを回すことで、背景を覆い隠してVR的な表示にすることも可能。「AR的なものとVR的なものですね地続きにしてしまったことも特徴のひとつ」と林氏は解説します。

体験の緻密さ、リアルさが大きな魅力

さらに、空間オーディオを採用した音響もApple Vision Proの魅力だといいます。「アーティストが演奏している映像を見ると、本当にボーカルの口元から音が聞こえてくるように感じます。その後、バックコーラスの声が右の方から聞こえてくるので右を見ると、たしかにバックコーラスの人がいる。音と映像が完全に位置合わせされた状態になっているので、目の前で演奏が行われているような体験ができます。同じような機能を搭載したヘッドセットはこれまでもありましたが、何が一番違うかというと、圧倒的にその体験の質が高いことです。それに加えてAppleは映像の演出に非常に長けているので、本当に自分が魔法の世界に入ってしまったように思えます」

そして、林氏が「一番感動した」と話すのが、恐竜が目の前に現れるアプリだといいます。
「他のヘッドセットにも似たようなアプリはありますが、Apple Vision ProはLiDARが正確なので表現が本当にリアルです。壁に大きな穴が空き、そこから恐竜が出てくる映像が壁の位置とオブジェクトの位置がぴったり合った状態で表示されます。そういった緻密さがAppleの強みだと感じています」

Appleはこのデバイスに対して「AR」「VR」ではなく「空間コンピューティング」という言葉を使っています。

「Appleが目指しているのは、MacBook Proの代わりにVision Proがあれば、大きなスクリーンを何枚でも表示できる、部屋全体を自分の仕事場にできてしまうという世界です」

“空間コンピューティング”の名にふさわしいものとして、メッセンジャーで送られてきた3Dオブジェクトをそのまま実寸大で表示できたり、ビデオ通話で通話相手の画面を空間に配置するとその方向から声が聞こえたりといった機能も搭載。

さらに、コミュニケーションを円滑にするために、ビデオ通話時に自分の表情を内部のカメラで取り込み、アニメーションとして再現する機能や、ヘッドセット装着中の自分の「目」をデバイスの外側に表示する機能も備えています。

体験の質はさらに向上していく

「Apple Vision Proについて話すときに、つい“魔法”という言葉を使ってしまうのですが、魔法を使っているように見えるマジシャンは、心理学をしっかり研究したうえで人の視線をうまく誘導して、どうすればただの体験をすごいと思わせることができるかを考えています。
Appleもそれと同じように、どうすれば魔法のような体験を実現できるのかをしっかり設計しています。開発者に向けて、そのようなアプリを作るためのていねいな解説も提供されているので、体験はさらに向上していくのではと考えています。そして、Apple Vision Proが出ることによって、他のヘッドセットのアプリも質が向上していくのではないかと期待しています」

 

 

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