ソードアート・オンラインの≪絶剣≫ユウキは生まれるのか?

メタバースやAIによって人間はどこまで自由になれるのかを討論したこちらのセッション。まずはMVJのアドバイザーである澤邊氏から「ソードアート・オンラインの≪絶剣≫ユウキは生まれるのか?」という問いからセッションが始まりました。

澤邊 芳明 氏:株式会社ワントゥーテン 代表取締役 CEO(左)
鳴海 拓志 氏:東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授 (中央左)
さわえ みか 氏:株式会社HIKKY COO CQO (中央右)
下西 竜二 氏:OTAGROUP株式会社 代表取締役プロデューサー(右)

≪絶剣≫ユウキとはソードアート・オンラインという作品に登場するキャラクターで、VRMMO内で無類の強さを誇る剣の使い手として描かれています。しかし、強さの裏には余命わずかな悲しい現実が隠されており、VRMMOだけが彼女が生き生きと過ごせる世界だったのです。最後は生きた証をゲーム内に刻み、仲間が見守る中で息を引き取りました。
では、現実世界でも≪絶剣≫ユウキのように、肉体的または精神的な障害を乗り越えることはできるのでしょうか。東京大学でメタバース関連分野の研究をしている鳴海氏は「障害を感じる原因は体と社会のミスマッチが起きているからで、その原因を除けば健全な状態で社会に溶け込めるはずです」と述べます。
「日本橋にある『分身ロボットカフェ』では、障害により外出が困難になった方たちが遠隔でロボットを操縦しながら働いています。ロボットを介して多くのお客さんとコミュニケーションを取り、楽しそうに働いているんです」

鳴海 拓志 氏

実際に働いている方の中には心臓の病気で自由に動けない方もいて、店頭に立っての接客は難しいとのこと。
「メタバースの中でなら心臓の負担を考えずに走りまわすことができ、お客様にマジックを披露する機会もあるそうです。『障害があってもこんなに明るく過ごしていることをみんなに知ってほしい』と何事にも前向きに取り組まれている姿は大変興味深いですよね」(鳴海氏)
また、株式会社HIKKYのさわえ氏は「≪絶剣≫ユウキになるためにはデジタル空間での個性を作らなければならない」と言います。「HIKKYでは新しい仲間がチームに入ってくる時に『まずあなたのアバターを作ってください』と言うんです。自身のアイデンティティをどこに置くかはとても大事なことで、その第一歩としてアバターを持ってもらいます。アバターの姿だからできることや生み出せるパワーがあって、経験や行動、信頼が蓄積されていった先にオンラインでの自分が作られていくはずです」

さわえ みか 氏

OTAGROUP株式会社を運営する下西氏は「もしかしたら『メタばあちゃん』が絶剣ユウキに1番近いのではないか」と語ります。メタばあちゃんは、「元気が有り余っているユニークなおばあちゃんたちをメタバースの世界で人気アイドルに育てていく」というプロジェクト。平均年齢85歳のバーチャルアイドルグループとして2023年3月から活動を開始しました。
「最近、骨折して1か月間入院した方がいたのですが、入院中も『この活動が生きがいだから』と出演時に使う台本作りに励んでいました。デビューのためにジャズバンドの前で歌を歌って練習したり、ボイストレーニングの先生を家に呼んで練習していたりしている方もいます」

下西 竜二 氏

メタばあちゃんの活動を始めたことで、家族の会話が自然とおばあちゃん中心に進むようになったメンバーもいるそうです。ただし、VRゴーグルをかぶって活動するのが難しい高齢者もいて、若い世代のサポートが不可欠だと下西氏は言います。
「動きの収録や編集作業などを若い世代が担えば、おばあちゃんたちには本質的な部分を楽しんでもらえるはずです。我々がサポートすれば高齢者も生き生きと暮らせる世界を実現できるんじゃないかと思います。日本の高齢者は長い年月で培ったスキルをたくさん持っているので、介護施設で過ごすだけではもったいない。そういった方のスキルを多くの人に届けられるような環境も整えていきたいです」

人はどこまで自由になれるのか?

澤邊氏は自身の体験談から「自由にどこにも行けない状態だったからこそ、身体制限を超えて活躍できる世界にのめり込んでいった」と語ります。
「僕は18歳でバイク事故にあい、車椅子で生活しなければならなくなりました。当時はメタバースなんてない時代でしたが、入院中に初めてパソコンに触れ、街の中をアイコンで歩き回れるゲームに出会った時には衝撃を受けたんです。今はメタバースでより解像度の高い体験ができるので、現実と遜色ない世界を作り上げることも可能ではないでしょうか」

澤邊 芳明 氏

最後に「メタバース内でなりたい自分を表現することで、未来の展望や生きる活力が湧いてくる」と鳴海氏は言います。
「男性のアバターを使って接客したいという女性がいて、お客さんから反応をいただくことで男性として扱われたい欲求を叶えられた方がいました。この方はその日ごとで自分が認識する性別が揺らいでしまうのですが、男性として接客をしている時にはメンタルコントロールがしやすくなったそうです。『性別違和のある私にとって、メタバースは必要不可欠な翼でした』とコメントをもらい、自己表現が生きる活力を生むのだと感じました。みなさんも少なからずままならない自分を抱えているのではないでしょうか。そういった面をメタバース内のアバターという形で表現することが当たり前になっていけば、人々はより自由になっていくのではないかと思います」

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