総務省のメタバースに対する3つの取り組み

このセッションでは、「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」の報告書をもとに、総務省のメタバースに関する取り組みが語られました。

高村 信 氏:総務省 / 元 総務省 情報流通行政局 参事官 / 現 内閣官房 内閣参事官


高村氏が今後の取り組みとして1点目に挙げるのが、データフォーマットの標準化です。日本では、NVIDIAが取り組みを進めるグローバルなフォーマットとは違う視点で標準化をする必要があるといいます。

「ひとつはリアル空間をスキャンしてメタバースに取り込む際の点群モデルです。これは3Dで膨大なデータ量になるため、特殊な圧縮方式の標準化が必要になります。そしてもうひとつがアバターの問題です。日本ではアニメ調のアバターが好まれますが、グローバルではほとんどニーズがありません。日本ユーザー向けにアバターを作るための標準化が必要です」(高村氏)

2点目は民主的な価値をメタバースに入れる点だといいます。サイバースペースはその気になれば何でも監視できてしまうため、この点をいかにカバーするかが重要です。

「日本のユーザーが使っているサービスの多くは日本製や米国製ですが、ゲームでは監視の強さが問題視されがちな国のサービスが意外と使われている。ここでコミュニケーションをすると会話が全部残るし、音声も文字起こしできてしまう。サイバースペースは民主的な場所であるべきだということを議論しなければなりません。これは民主主義国家である日本の義務です」(高村氏)

3点目はルール明示の推進。高村氏は「そのメタバースがどんな世界かを理解していないユーザーが入ってくると悲惨なことになる」と指摘します。

「例えば殺伐とした世界とほのぼのした世界があったとして、子どもが間違って前者の世界に入るのは良くありません。その場所がどういう世界かをユーザーに提示しないとメタバースは広がっていかないと思います」(高村氏)

「中の人問題」の解決には議論が必要

今回の報告書の中でメイントピックとなったのが「中の人問題」です。この問題について高村氏は3つの課題を挙げました。

1つ目は匿名性の高い環境では、リアルスペースでは発生しないレベルの揉め事が起こる点。わいせつな言動や誹謗中傷などは法律で対処できますが、暴力行為や迷惑行為についてはメタバースを仕切る側のルール設定の問題であると高村氏は話します。

さらに問題として挙げられたのが「メタバース痴漢」です。特に「触られる問題」はデリケートな部分で、バーチャル空間で触られても物理的には何も起きておらず、究極的には快・不快の問題になりますが、ここを既存の制度で規制するのは難しいと高村氏は語ります。

「アバター同士が一定の範囲以内に近づけないようにすると、今度は乾杯などのコミュニケーションもできなくなります。どこまで規制するかは難しい問題です」(高村氏)

2つ目がサイバースペースでの暴力行為です。暴力を振るう相手がNPC、つまり中の人がいない場合は大きな問題になりませんが、ユーザーが作ったbotとなると状況は変わってきます。

「例えば私が自分の分身botを作ってメタバース内で活動させていて、そのbotが暴言を受けたら私は被害者になるのでしょうか? ここは非常に悩ましい話です」(高村氏)

この件について高村氏は「メタバースのユーザー同士で話を積み上げていくしかない」と強調します。

「政府が規制すると、フォールスポジティブになって規制しなくていいものまで規制するようになります。これをやってしまうとメタバースの発展は絶対に止まってしまいます。政府が関与する前に、皆さんで議論を尽くしていただけると嬉しいです」(高村氏)
3つ目が経済活動の問題です。メタバース内で商取引が行われた場合、相手が信用できるかを考慮しなければなりません。

「対価を渡したあとに本当にサービスを提供してくれるかを、どう判断すればいいのかという課題が絶対に出てきます。ここをクリアしないとメタバースでの経済活動は発展しません」(高村氏)

相手が個人の場合は日頃の付き合いや評判、いざとなれば電子署名やIDで確認できますし、信用できる主催者がいればある程度の担保は可能です。一番の問題となるのが「オープンワールドで大手業者を名乗る人が出てきた場合」だと高村氏は強調します。

「サイバースペースでは法人を確認する手段がないのが現状です。仕掛けを用意しておかないと、実は普通のWebサービスの方が便利ということにもなりかねません。この部分に関してはサービス提供者の間で議論を重ねていく必要があります」(高村氏)

TOP