有識者が振り返る「メタバースブーム」

このセッションでは、業界を代表する有識者がこの数年のメタバースを振り返るとともに、今後の普及についての議論が交わされました。

中馬和彦 氏:KDDI株式会社 事業創造本部 副本部長 / バーチャルシティコンソーシアム代表幹事(左)
國光 宏尚 氏:株式会社Thirdverse 代表取締役CEO / ファウンダー 株式会社MintTown 代表取締役CEO / ファウンダー 株式会社フィナンシェ代表取締役CEO / ファウンダー(中央左)
荒木 英士 氏:REALITY株式会社 代表取締役社長 グリー株式会社 取締役 上級執行役員(中央右)
舟越 靖 氏:株式会社HIKKY 代表取締役CEO(右)


2021年から始まった「メタバースブーム」について國光氏は、ブームの後に幻滅機が訪れるのは仕方のないことだとし、その背景を次のように説明します。

「技術の進化は地味なものですが、世の中の多くの人たちは新しい技術が出てきたときに勝手に過剰な期待をかけ、幻滅していきます。一方で、コンテンツの制作などに地道に取り組んでいる人たちはその技術をしっかり使ってコンテンツ作り続けます。世間の人々の期待値と、実際にできることが重なるようになったときが、一般に普及していくタイミングだと思っています」

國光 宏尚 氏


荒木氏は、「2021年にFacebookがMetaに社名を変えたときに発表されたイメージビデオで描かれていたような、VR空間で仕事も教育も遊びもコミュニケーションもすべて完結する世界が実現するにはハードウェアの普及台数が一桁足りない段階」と指摘。一方で、ゲーム領域では着実にユーザーが伸びているといいます。

「グローバルではFortniteやROBLOXなどの売上が伸びていて、アバターでコミュニケーションをとり、経済活動を行う世界がすでに存在しています。ただしそれらはエンターテインメントや若者向けのコンテンツなので、ビジネス界からはあまり注目されていないのが現状です。これらのプラットフォームがもつ経済効果に改めて価値が見出されたときに、もう一度ブームが訪れると思っています」(荒木氏)

荒木 英士 氏


國光氏は、「Quest 2ユーザーで一番多いのはティーンエイジャー。彼らはほぼ毎日、1時間半から2時間VR空間にアクセスしている」と実態を話します。さらに、「ティーンエイジャーはVR酔いををしないことが明らかになってきた」という興味深い情報も紹介しました。

「メタバースネイティブの世代はすでに出てきています。『VRの時代がきているか』と聞かれたら、かなりきていると思いますが、今はそれがゲームコンソールとしての位置づけに限られている段階です」(國光氏)

船越氏は、メタバースブーム以前から開催されている大規模VRイベント「バーチャルマーケット」の運営を通して感じたメタバースの現状とこれからを次のように話します。

「バーチャルマーケットは、上手下手に関係なく自分の作ったものを人に見せることができる場所です。たとえ数人でも自分の作品が好きだといってくれる人がいれば、それがモチベーションになって作り続けることができます。実際にそうやって業界のプレイヤーとして成長していった人たちがいて、彼らの作品にはすでに多くのニーズがあります。ものを作る情熱の場所があれば、これから先もメタバースは続いていくのではないかと思っています」

「NEW WORLD」が訪れるのはいつ?
セッションではさらに、メタバースの今後についても議論されました。中馬氏は、「NEW WORLD」を「メタバースが標準になった新しい世界」と定義した上で、それがいつ訪れるのかの予測を各登壇者に尋ねます。

中馬和彦 氏

荒木氏は、「必要なものは時間」だと話し、その実現のタイミングについて次のように予測しました。

「すでに現時点でも、人生におけるデジタル空間で過ごす時間の比率はかなり大きくなっています。今後、デジタル空間内のものに価値が見出される時代が訪れると思いますが、それはあるときに突然来るのではなく、じわじわとした変化です。実現したことに気づかないくらい自然にNEW WORLDが実現するときが来ると思います」

國光氏は、キラーコンテンツとキラーユースケースを生み出すものとして、6月に発表されたAppleのデバイス「Apple Vision Pro」に期待をかけます。

「Apple Vision Proの発表時に紹介されていたのは、2Dの巨大なスクリーンで映画を見たり会議をしたりするという、すでにMeta Quest 2などでゲームをしている人たちからすると“古臭い”使い方です。でも、そのクオリティをとことん高めた結果、2Dでもすごい体験ができる世界を実現しています」

そして、Vision Proが成功して、ゲーム以外のキラーコンテンツが生まれることで、現在のVRデバイスの主要ユーザーである若年層以外の世代にもメタバースが広がっていくと國光氏は予測します。

船越氏は、「NEW WORLDはもう始まっている感じではあるが、以前は作る人と遊ぶ人がほぼ一緒だったのに対して、最近は作らずに遊ぶだけの人も増えてきた」と変化を指摘します。

「VRの世界で生産されたものがリアルな世界に出てきたり、VRの中で働いていた人がそこから外の世界に出てくる世界が訪れると思っています。その実現にはあらゆるテクノロジーが必要ですが、すでにそういった技術を持っている企業がたくさん存在します。今後はいろいろなサービスを組み合わせることで、メタバースの世界にいる彼らが生産し、現実で消費する流れを実現できるはずです。そうなれば、NEW WORLDと言ってもいいくらいの環境になると思っています」

舟越 靖 氏


「NEW WORLD」の訪れに気づくための変化

セッションの最後には、「NEW WORLDの訪れに向けたアドバイスを各登壇者が語りました。

「自分が使っていないものを信じて盛り上がらないことだと思います。実際に使って可能性を感じたのであればいいのですが、『メディアが取り上げていたし、社長がメタバースをやった方がいいと言っているから』といった理由で焦って導入すると、ブームに振り回されることになると思います」(荒木氏)

「物を作ることと、それを消費するという観点からすると、今後は個人の作るものがどんどん企業を超えていくと思っています。そのときには、今日話されたようなデバイスのハードルを何らかの手段で乗り越えていく経過も大切だと思っています。そこに物を作る人たちが活躍でき、自分たちの想像力を実現できる世界があると思っています」(船越氏)

「NEW WORLDはすでに来ていて、爆発的な普及期の手前にあると思います。デバイスについても、これまではQuest一強だったものが、Vision Proが発表され、PlayStation VR2が登場し、PICOも本腰を入れてくるなど、いよいよプレイヤーが揃ってきました。この先、スマホでいえばLINEやパズドラにあたるようなキラーコンテンツが出てくれば、爆発的に伸びていくのは間違いないと思います。そういった意味では、参入するのはまさに今がベストなタイミングではないかと思っています」(國光氏)

 

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