メタバースのインフラ化と地方の課題


「技術が拡がる。仕事が変わる。世界が生まれる。」をテーマに開催された2023年夏のMetaverse Japan Summit。モデレータの馬渕氏は、そのテーマが示すとおり「Web3やAI、都市や自治体、ヘルスケアや社会実装など、かなり広範囲にわたりそれぞれの関わり方が示される多彩なセッションが繰り広げられた」と振りかえります。

馬渕 邦美 氏:PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員(左)
齋藤 精一 氏:パノラマティクス 主宰(中央左)
上田 泰成 氏:新潟県三条市 副市長 / 元経済産業省コンテンツ課 課長補佐(中央右)
長田 新子 氏:一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長/SOCIAL INNOVATION WEEK エグゼクティブプロデューサー/一般社団法人シブヤ・スマートシティ推進機構 理事(右)


馬渕氏の言葉を受け、「メタバースがようやくインフラ化としてきたのは、さまざまなセッション内容にも象徴されている」と話す齋藤氏。メタバースやAIが今ほど浸透する前から、アートや広告、都市開発など複数の領域でXRやVRを活用し、行政や企業の企画、実装アドバイザーを手がけてきた経験から「メタバースは大きな道具になる存在だと思う」と続けます。

「さまざまな人たちが参加でき、それがリアルにもフィードバックされます。そのリアルがデータ化されるという意味でも、道具としてのメタバースは強い。多様なコミュニティの人たちがメタバースの中に入ってくるのはいいことだと思います」(齋藤氏)

齋藤 精一 氏


昨年度まで経済産業省コンテンツ課に在籍していた上田氏は、ゲーム産業や、eスポーツ、バーチャルスポーツ政策、DX人材育成、メタバース、Web3.0に関する業務を担当し、これまでもMVJのイベントに何度も登壇してきました。そんな上田氏にとって「渋谷は存在自体がメタバースのような場所」であり、「その盛り上がりを肌で感じてきた」と言います。

一方で上田氏が4月から副市長を務める新潟県三条市は職人の街。「リアルな技術で発展してきた歴史があり、メタバースの出口がどこにつながっているのか、付加価値を示して理解をいただけなければいけないのが現状」と課題を述べました。

「地方でメタバースを活用し、地方創生などの取り組みを進めるにはまだまだ乗り越えるべき課題が多い。日本の地方が共通して取り組まなくてはならないハードルだと感じます」と話し、馬渕氏もうなずきます。

「技術」と「リアルな思い」のつながりが生み出す変化


長田氏は、AIR RACE Xのセッションを通して「マッチング」の重要さを再認識したと話します。

「アスリートがコロナ禍で競技の場を失い、リアル開催以外のアイデアが浮かばずに困っていたときに、AR/VRの技術を持つチームと出会ったことで新たなチャンスを得たそうです。アスリートとテクノロジーを駆使するメンバーとのマッチングが新しい価値や次につながる挑戦のきっかけとなったことは注目すべきところだと思います」

そして、「“技術を活用できる人たち”と、リアルでの実現に難がある“やりたいことを持つ人”がもっと繋がることができれば、さらに可能性が広がる」と強調します。

長田 新子 氏


「それは地方の抱える課題にも通じる部分がある」と齋藤氏。道具としてのメタバース活用には、明確な地域像、社会像が必要になってくると言います。

「これまでミラノ万博やドバイ万博に関わって感じたのが、社会課題解決に向けて、人々が考え、集い、意見を交換する「場」としての機能を持つことの重要さです。そこで大阪・関西万博でも『EXPO COMMONS』を立ち上げました。ここではバーチャル空間を活用し、世界中の人々がコミュニケーションを取ることが可能です。世界のどこでも、何億人でも気軽に参加でき、価値観の共有も容易。何をしたいのかが明確であれば、メタバースほど強い道具はないでしょう」

長田氏は、「自治体では『とにかくメタバースに取り組みなさい』と上から言われ、『何のためにメタバースを使うのか』が最初のクエスチョンになっている現場もあると聞く」と疑問を投げかけます。

これに対して、現場を知る上田氏は次のように地方の現状を説明します。

「確かに地方では『なぜメタバースを使うのか』『地域にどんな益をもたらすのか』がまだまだ周知されていません。どうやって地域の収益に還元するのか、それになぜメタバースを使う必要があるのかにまで落とし込んで説明しないと同意を得られないと思います。例えば観光体験付きのデジタル商品券やNFTを活用など、取り組み次第では改善の余地があるかもしれません」

上田 泰成 氏


齋藤氏からは、「メタバースの地域での活用のファーストステップは人材の共有。わからないことをすぐに尋ねられるエキスパートと繋がることのできる環境をつくるべき」との提案もなされました。

日本はテクノロジー先進国としての可能性を秘めている


最後に馬渕氏は、世界最大のメタバースのコンソーシアムMetaverse Standards Forumで話をしたとき、「MVJは世界の先を行っている」と言われた経験を明かします。

「日本はテクノロジーフレンドリーで、本来はメタバースやブロックチェーン、AIと相性のいい国民性のはず。今こそ、世界の先を走るチャンスだと感じています」

馬渕 邦美 氏


長田氏も「国を含めて対応していく必要がある」と賛同します。

「メタバースには国境も関係ない。意思決定から実行へのプロセスがものすごく早い空間です。日本人は自らに自信を持つ人が少ないと言われるけれど、メタバースの活用に関しては日本独自の可能性を秘めていると感じています」と齋藤氏。

上田氏は、日本の未来は、「東京以外の地方の活性化にかかっているといっても過言ではない」と訴えます。齋藤氏の提示した「人材の共有」をはじめ、デジタルに長けた外部人材の活用を見直していくことが必要だと続けて語りました。

最後に馬渕氏から「メタバースの課題だけでなく、さまざまな角度から社会実装への可能性が開けていることを再認識する契機となった」と開催の成果がまとめられ、イベントは終幕となりました。

 

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