Web3における日本の現在地
アメリカを中心にWeb3分野の投資は急激に増加していると加藤氏はいいます。グローバルに見ると、Web3分野のサービスやプロジェクトは次々と生まれており、新しい情報が続々と入ってくるとのこと。一方で加藤氏は、Web3における日本の現在地をこう語ります。
「国内に目を向けてみると、税制や法規制がネックになり、民間の事業者がビジネスに取り組みにくい環境なのが実情です。普段の生活でWeb3やブロックチェーンなどのテクノロジーが使われているのはごく一部で、本格的に社会実装されるのはこれからと考えています。今はまさに黎明期と言えるでしょう」
2022年に「骨太の方針」として国家戦略の中にもWeb3という言葉が織り込まれました。国の動きを踏まえ仙台市として何ができるか、地域性を生かして考えていったと加藤氏は語ります。
「高いポテンシャル」という地域性を生かした仙台市
現在10の地域が特区として認定を受けている中、そのうちの1つに仙台市は含まれます。特区に選ばれている仙台市だからこそ、Web3分野のビジネスを広げていく責務があると加藤氏は言います。
「特区エリア内は限定的に法律や規制を一部緩和できるため、チャレンジできる環境を整えやすいです。その特徴はWeb3分野と親和性が高く、仙台市に集まる若者やエンジニアが高いポテンシャルを発揮できます」
仙台市は人口に占める若者の割合が多く大学や高専が非常に多い。さらに、大手IT企業の支店が仙台市周辺に多く集まっており、エンジニアも非常に多い点が特長です。
「だからこそ、支店経済都市と位置付けられ大学初のベンチャー企業などスタートアップ関連の動きも非常に活発になってきました。Web3やブロックチェーンに限らず、AIなどのテクノロジーを地域ならではの産業とかけ合わせ、その土地に合ったソリューションを生み出していこうという取り組みが進んでいます」(加藤氏)
税制の課題やDAOの法整備に取り組む
仙台市は現在、国家戦略特区としてWeb3ビジネスに関する国への提案の準備を進めている段階です。
「トークンにまつわる税制や会計基準の問題は非常に重要な論点であり、上場企業だけでなくベンチャー企業にとっても運営の妨げになり得ます。また、DAOに関する法整備もアメリカなどに遅れをとっている状況です。問題の明確化や組織が健全に運営できる法整備を提案するのと同時に、チャレンジできる環境を作るのが特区の取り組みとして重要かなと思います」(加藤氏)
また、小宮氏からは「国への働きかけだけでなく、行政の中での合意形成自体に難しさがあったのではないか」と多くの担当者が思う疑問を投げかけられました。
「正直、市役所内部での説明が一番大変でした。特に、Web3について上層部の方々に理解していただくのが一番苦労しました。今でも完全な理解を得られていないかもしれませんが、いざリリースして反響があると外堀から埋まっていったんです。そんな作戦で理解を得ていきました」(加藤氏)
情報をオープンにし「面白そうだな」と思ってくれる仲間を集める
最後に、自治体としてWeb3分野に取り組んでいく「最初の1歩」を加藤氏が教えてくれました。
「仙台市の中だけで検討するよりも、情報をオープンにして多くの方から意見をもらえた方が良い形になるかもしれない。そう考え、構想段階から関わってくれている有識者の方々に知り合いを紹介していただき、数珠繋ぎで協力者の範囲を広げていきました。首都圏在住の仙台出身者や学生時代を仙台市で過ごした方、パートナーが仙台出身など、何かしら仙台市と縁を感じて関わってくださる方が多いことは、プロジェクトを進める中で実感しています。それ以外にも、先んじて国へ提案をしていた福岡市と力を合わせて国と協議を進めている段階です」
Web3分野だからこそオープンな形で関わりたいと思う方と協力がしやすいと加藤氏は言います。
「行政や自治体だからこそ一般企業よりもリスクを取れる場合があります。けれど、行政だけでできることは限られているのも事実。だからこそ、不透明な状況でも「面白そうだな」と思ってくれる仲間作りが、自治体としてWeb3分野に取り組む最初の1歩目なのだと思います」