静岡県を1/1で再現し、災害対策などに活用
「VIRTUAL SHIZUOKAは、縮尺1/1の静岡県をバーチャル空間上に再現するプロジェクトです。飛行機からのレーザースキャンなどで地形の点群データを取得し、データセットとして提供。完全なオープンデータとして公開されているので、誰でも無料で使うことが可能です。
プロジェクトの背景について、杉本氏は次のように語ります。
「災害に備えておきたいという理由がまずあります。災害発生後にドローンなどでデータを取ることは一般的になってきましたが、山岳地帯には人が入るのが難しい場所もあります。これらのデータをあらかじめ取得しておくことが最大の目的です。2021年7月に起きた熱海市伊豆山土石流災害においても災害前・災害後のデータ差分を抽出することで被害状況の把握に役立てています」
そして、「最初から防災の用途を想定していたのか、プロジェクトを進めるなかで防災の用途が重視されるようになったのか」という小宮氏の問いかけには、「メインの目的は防災」と答えます。
「静岡県全体のデータを取るのに17億円かかりますが、このデータを使うことで復旧を早めることができれば経済損失を抑えられます」(杉本氏)
そのほかには、自動運転に使われるダイナミックマップとよばれる地図の作成にもVIRTUAL SHIZUOKAのデータの活用が期待されているとのこと。
PLATEAUとも密接に連携
「VIRTUAL SHIZUOKAはメタバースなのかをよく聞かれる」という杉本氏。「私はデジタルツインだと思っている」としたうえで、「縮尺1/1でそっくりそのままの静岡があり、シミュレーションに使える点がメタバースとの違い」と話します。
これに対して小宮氏は、「作り手がデジタルツインとしての用途を想定していたデータが、メタバースとしても活用され、両者の垣根がどんどん低くなっている」と指摘します。
また、国が推し進める3D都市モデルのプロジェクト「PLATEAU」とも密接に連携を行っているとのことです
「VIRTUAL SHIZUOKAは点群データ、PLATEAUは平面から3Dモデルを立ち上げているという違いがあります。今は点群データから3Dモデルを作る「Scan to BIM」という技術があるので、VIRTUAL SHIZUOKAの点群データを3D化して、それを補う形でPLATEAUのデータを使うことで、道路などのインフラまで3Dモデル化していきたいと考えています」(杉本氏)
失敗を恐れずに進めてみること
県としてプロジェクトを進めるにあたり、どのように人材確保を行ったかという小宮氏の質問には、杉本氏は次のように答えました。
「若い世代は3Dネイティブで、とても広い知見を持っています。内部の人材が才能や技術を発揮するための環境を作ることが私たちにできることかなと思っています」
杉本氏の元には、海外からの思いがけないコラボレーションの依頼もあったといいます。
「スペインのエンジニアが、VIRTUAL SHIZUOKAを使ってレーシングゲームを作ってくれました。最初のバージョンの動画を送ってもらった後、アップデートを重ねてクオリティも上がっています。来年春には発売も考えているとのことです」
最後に杉本氏は、これから同様の取り組みを進めたいと考える自治体に向けて次のように呼びかけました。
「自治体は失敗してはいけないと思いがちですが、まずはスタートする、60点でもいいので1歩進めてみることが大切だと思います。もし必要なら静岡県が後押しすることもできるので、お声がけいただければと思います」