古民家をメタバース化するプロジェクトが始動


アパレルブランド「群言堂」などを展開する株式会社石見銀山群言堂グループは2022年11月、大成建設株式会社、株式会社ワントゥーテンと共同で、同グループが所有する茅葺きの古民家「
鄙舎(ひなや)」をメタバース化するプロジェクトを始動させました。

澤邊 芳明 氏:株式会社ワントゥーテン 代表取締役(左)
古市 理 氏:大成建設株式会社 設計本部 先端デザイン室(中央左)
松村 和典 氏:島根県大田市 産業振興部観光振興課 課長補佐(中央右)
松場 忠 氏:株式会社石見銀山群言堂グループ 代表取締役社長(右)


プロジェクトが始動した経緯について、古市氏は次のように語ります。

「松場社長から関係人口の増加や地域を活性化する取り組みをデジタルでやれないかという相談を受け、最終的には大森町に来てもらうためのメタバースという形でプロジェクトが発足しました。現在、大成建設では、実測した鄙舎の点群データから、デジタルツインの元になるBIMを作成しています」

古市 理 氏

 

現実空間とつながるデジタルツインバースを構築


鄙舎のメタバースでは、デジタルツインの元になるBIMとよばれるデータを大成建設が制作し、ワントゥーテンがそれをあえて手書き風の表現でCG空間に変換しています。特徴的なのは、現実空間と仮想空間との相互共有が可能な「デジタルツインバース」の空間となっている点です。澤邊氏はデジタルツインバースの特徴について、こう話します。

「メタバースはVR空間に閉じているものが多いですが、デジタルツインバースでは、リアル空間にいる人の情報をメタバース空間に反映できます。つまり、リアル空間側の人がタブレットなどのデバイスを手に移動すると、メタバース空間上でもその人のアバターが連動して移動します。

つまり、地域の商業活動や観光案内などに従事する方とのコミュニケーションもプラットフォーム上で完結できるようになるわけです。仮想空間の世界だけではなく、現実空間をどうメタバースと連携させていくかという部分に可能性を感じています」

澤邊 芳明 氏


鄙舎をデジタルツインバースで構築する計画に対し、松場氏は次のように語ります。

「アナログとデジタルは相反するように見えますが、お互い最先端の方に行けば相性がよいと思うんですね。石見銀山の膝下にある大森町の街並みは、重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)と呼ばれる地域になりますが、そうした場所でデジタルとアナログが連携されることは、とても可能性があると感じています」

 

大田市が直面する消滅可能性都市問題


後半は一転し、少子化や都市部への人口流出をきっかけに、今後自治体として存続できない可能性のある消滅可能性都市の問題に議題が移ります。島根県大田市も、消滅可能性都市に該当することを踏まえ、松場氏は、市の課題について次のように語ります。

「やはり一番大きい課題は、人口の減少ですね。この1年、市全体の出生数は170人でした。少し前まで200人はいたのですが、この1年で急激に落ちてしまいました。将来的には、少子高齢化に伴う人手不足や介護離職、空き家問題、インフラ崩壊の発生が危惧されています」

松場 忠 氏


そうした課題をどのように解決するのでしょうか。澤邊氏は、関係人口(特定の地域に継続的に多様な形で関わる人)の重要性について指摘します。続けて、「当事者から見て関係人口をどのように考えているか」という澤邊氏の問いかけに対し、松場氏は次のように答えました。

「これまでは観光か移住かという二極で議論されてきましたが、実はもう少し緩やかな関係性があると思うんですよね。訪れて消費するだけでなく、訪れた後もつながっていく。具体的には、移住まではいかなくとも、好きだから応援したり、食べ物を買ったりといった形です。とくに今回のデジタルツインでは、旅前・旅後のコミュニケーションに可能性を感じました」

 

高齢者とデジタルをつなげる


少子高齢化の解決に向けた議論を続けるなかで、メタバースプロジェクトに参画した3社ができる取り組みとして、住民コミュニティの提供・運営や魅力ある観光資源と体験の伝達、大森町全体のデジタルツイン化など、さまざまなアイデアが飛び出します。

そうしたアイデアを実践していくうえで障壁になり得るのが、高齢者のデジタル活用の問題です。最後に、松場氏は、そうした高齢者のデジタル・ディバイド問題の解消に向けて次のように語りました。

「デジタルと高齢者はやはりまだまだハードルが高いんですね。それでも、コロナ禍で群言堂のブランドをシニアの方に知ってもらうための活動に取り組んだところ、LINEなどのデジタルツールの便利さをすごく感じました。今後は高齢者の暮らしのなかにデジタルとの接点をどう持たせるかが重要になってくると思うので、そうした流れづくりを関係者間で協議しながらやっていければよいと思っています」

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