チームスポーツとしてのメタバース・Web3の可能性


スポーツチームとしてのメタバース・Web3の可能性について、プロ卓球チーム・琉球アスティーダ——としてメタバース上でのイベントなどの運営を手がける早川氏は、「1000人くらいの会場があれば十分に熱狂を作れる」と強調します。

 

早川 周作 氏:琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 代表取締役(上)
長田 新子 氏:一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長(左)
室屋 義秀 氏:LEXUS PATHFINDER AIR RACING エアレース・パイロット/エアロバティック・パイロット(中央左)
佐藤 晃司 氏:広島テレビ放送株式会社 DX事業推進室 新規事業プロデューサー(中央右)
豊田 啓介 氏:東京大学 生産技術研究所特任教授 建築家(左)


「SDGsの観点からも、大きな会場を用意する必要はないと思っています。これからは、1000人規模のリアル会場があれば、あとはメタバースとWeb3で熱狂をつくることができる時代に変わっていくと考えています」

琉球アスティーダでは、ファンが応援したい選手のトークンを購入することで支援できる「クラブトークン」も発行しています。その理由について、「ファンクラブやスポンサー契約のような1年ごとのものではなく、チームが成長するとともに経済的な対価を発生するしくみ作りたいと考えた」と語りました。

室屋氏は、エアレースの選手の立場からスポーツの熱狂についてこう話します。

「リアルな会場の熱狂には人間の感性を揺さぶるような波動のようなものがあり、人間の英知では測れないようなすごい現象が起きることもあります。でも、コロナ禍で海外に出ることが難しくなり、熱狂を伝えられなくなっていたので、それをデジタルでどうにかできないかとよく考えていました」

室屋 義秀 氏


そんなエアレースを、
VRとAR、現実空間を連動させて再現したイベントが「エアレース渋谷」です。これは、渋谷に実在するビル「渋谷キャスト」周辺の3Dデータを使い、VR空間に再現した街を自由に飛び回れるというもの。さらに、リアルな渋谷キャストでは、ARで自分のレースを呼び出して観戦することも可能です。

エアレース渋谷を手がけ、自身もエアレースのファンだという豊田氏は、VR、ARと現実空間を連動する意味について次のように説明します。

「人間の興奮は、その場で新しく得た情報だけではなく、もともと持っているものも影響しているので、その体験をどう引き出すかが重要になります。リアル空間にある皆が共有している記憶をVRに再現する、VRの中で共有されている体験をARに呼び出すといった、世界を超えたところにある興奮や共通の物語を作ることができれば、それらがシンクロしてさらに世界が広がるのではと思っています」

豊田 啓介 氏

 

リアルとメタバースはどう連動していく?


広島東洋カープのファンクラブ会員向けメタバース空間「メタカープ」を手がける佐藤氏は、スポーツにおけるリアルとメタバースの連動の可能性について、「相性が非常にいいことはわかってきた」と話します。

「今後は、現地のスタジアムにいる人たちの動きをメタバース空間に反映したり、メタバース空間で応援している人が風船を飛ばしたら、リアルなスタジアムでも連動して風船が飛ぶといったような、より双方向性の高い動きも取り入れてみたいと思っています」

さらに、広島県内での横展開も積極的に行っていきたいといいます。

「県内にはスポーツチームが他にもたくさんあるので、いろいろなチームとつながりながら、あえて少しガラパゴス化するくらいの広島を盛り上げるための空間を作っていきたいと考えています」

佐藤 晃司 氏


早川氏も、異なるスポーツ同士の連携の可能性に同意します。

「今はチーム間でスポンサーを取り合うような時代ではなく、共に生きる時代になっています。たとえば、メタバースでさまざまな競技を同時進行できる空間があれば、卓球ファンがバスケを見て興味を持ったり、バスケのファンがサッカーを観戦するきっかけになったりといった循環が生まれるかもしれません。スポーツだけでなく、そこに観光を絡めることもできると思います」

 

リアルな「場」が体験をつなぐ起点となる


室屋氏は、「世界各地のパイロットが、それぞれの地域で飛んだデータを渋谷の街に重ねて、世界中の選手がVR空間の渋谷を飛ぶところを見られるような取り組みができたらおもしろい」と今後の具体的な活用に期待を寄せます。

豊田氏は、室屋氏のアイデアについて「問題なくできる」としながら、リアルな「場」のもつ強みについて次のように話しました。

「バーチャルの世界は便利だけれど、時間的・場所的にいくらでもずれることができるので、シンクロした瞬間を作りにくいのが難点です。スタジアムなどのリアルな場所は、『その場に足を運ぶだけでワクワクする』といったストーリーを共有しているので、体験のシンボルとして重要だと思っています。施設をスキャンしてデバイス化したものが、共有体験がバーチャルに拡散していく起点となるはずです」

セッションの最後に佐藤氏は、「メタバースを活用した本当の大成功事例はまだないと思ってます。私たちのメタカープもまだ成功しているとは思っていないので、今後も技術や知見を固め、いろいろな人と共有しながら成功事例を作っていきたい」と締めくくりました。

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