自治体はイノベーションをどう起こしていけばいいか?

Japan Empowerment Summit 2023翌日の2月3日、自治体担当者を対象としたMeet Upが東京カルチャーカルチャーで行われました。

馬淵氏によるMetaverse Japanの取り組みの紹介と、長田氏による渋谷未来デザインのプロジェクトなどを紹介する基調講演が行われた後、「自治体イノベーションの起こし方」と題したセッションに4名が登壇。県や基礎自治体、教育委員会の立場から、それぞれの取り組みやイノベーションを起こすために必要なことを語りました。

長田 新子 氏:一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長(左)
杉本 直也 氏:静岡県交通基盤部政策管理局建設政策課未来まちづくり室 課長代理 Code for Kakegawa/副代表理事(中央左)
加藤 廣康 氏:仙台市経済局産業振興課主任 東北大学情報知能システム研究センター 特任助教(中央右)
小玉 祥平 氏:香川県三豊市教育委員会(右)

「オープン化したデータは国内だけ使われるというイメージがあるかもしれませんが、こういったケースもあります。今後、日本発のメタバースやデジタルツインから新たなものが生まれる事例が増えていけばいいなと思っています」

さらに杉本氏は、自治体からイノベーションを起こすために心がけていることとして、「Yes,Andで対応する」「面白がり力を発揮する」「乗りかけた船は降りない」などを挙げました。

杉本 直也 氏

加藤氏は、仙台市が特区として取り組む国家戦略特区について「特区に指定されてるからこその責任があるので、できることはやらないといけない」といいます。具体的には、トークンに関する税務や会計基準の明確化やDAOの法整備などを進めていると話します。

「ボトルネックを解消することで、イノベーションを起こすことができる起業家が活躍できる場をまずは作っていこうという観点での取り組みです」

大学としても取り組みを行っているという加藤氏。そこで大切になるのが、「課題ありきで進めること」だと強調します。

「『この技術を何かに使ったら面白い』という発想だと、無駄にスペックが高いものになってしまったり、実際に使えるものにならなかったりします。先に課題があり、その解決のために新しい技術を使うという発想が必要です」

そのひとつの事例として、宮城県の気仙沼で地域の基盤産業となっている水産業の課題を解決するために取り組んだ、タラのオスとメスを識別するツールの開発プロジェクトを紹介しました。

「産業の現場にいる方は、AIやITといっても、それをご自身の仕事と結びつけてイメージしづらいことも多いです。専門用語を使うのではなく、課題を引き出して、それをどう解決できるのか、何ができるのかを話して技術側の人たちとつなぐことが、イノベーションの第一歩だと思っています」

加藤 廣康 氏

小玉氏は、三豊市教育委員会が新たな取り組みとして進める、「メタバース部」のコンセプトについてこう話します。

「三豊市は人口6万人ぐらいの自治体ですが、英語を使って仕事してる人はほとんどいませんし、街で外国人の方に出会う機会もあまりありません。英語を勉強しても、それをいつ使うのかイメージできない中学生が多いと思います。そこを実践的に学ぶ機会を作りたいと思っています」

放課後の時間に余裕のあるネイティブスピーカーのALTが指導を担い、海外の中高生も参加する部活動を作っていくといいます。

小玉 祥平 氏

印刷会社が取り組む地方創生

続いての有識者講演では、「DNPのXRコミュニケーション事業~地域共創型で目指すXRまちづくり〜」と題して、大日本印刷株式会社 XRコミュニケーション事業開発ユニットの浜崎氏が登壇。同社の地方創生に関する取り組みについて紹介しました。

浜崎氏

同社では、XR・メタバースを「知とコミュニケーション」「住まいとモビリティ」「食とヘルスケア」「環境とエネルギー」の4つの成長領域を横断する大きなテーマとして捉えているといいます。そして、XRコミュニケーションを構成する要素には、「空間」「コミュニケーションプロセス」「認証データ流通」の3つの構成要素があるとのことです。

その具体的な施策として、XR構築サービス「PARALLEL SITE」を展開。リアルな場所を拡張して豊かな空間体験を届けることをコンセプトに、地域の観光資源を含めた公認空間としてのデジタルツインを作成し、オープンな環境で使える汎用性の高い空間として可能性を広げていくことをめざしています。

「三重県広域連携モデル」としての取り組みでは、オンデマンドの医療MaaSや仮想自治体、手助けを求める人と手助けできる人をつなぐアプリ「mayII」などを展開。今後は、Web3技術も活用しながら、データ活用による地域創生を進めていくといいます。

「大切なのは、メタバースを作ってその後どうするかだと思います。メタバースはあくまでも手段なので、まずはデジタル化して住民サポートの質を上げて業務負荷を減らしていく、その街に行きたいと思う人を増やしていくという本来の施策があったうえで、その最適化として活用することが必要だと考えています」


「住民」にとって、メタバースはリアルと同じ

続いての講演には、これまでに約3000時間をメタバース空間内で過ごしたという水瀬氏が登壇。VR Chatを中心としたソーシャルメタバースに「住んでいる」ユーザーのカルチャーを紹介しました。

水瀬 ゆず 氏

「メタバースで街づくりをすることが夢」だと語る水瀬氏。福祉、学び、教育の3つの面からデジタルツイン化をめざし、メタバースの街と現実の街それぞれのウェルビーイングの向上を実現したいといいます。

その取り組みの一環として、2022年夏に広島県と連携して2週間の不登校支援を実施。23年は全国に拡大しての実施も予定しています。

「私にとってメタバースはもう一つの世界現実世界」と話す水瀬氏。Z世代を中心にメタバースでのコミュニケーションが支持される背景として、情報量と情報速度の変化を挙げます。

「Z世代は小さい頃からデジタル機器と接する機会が多く、常時接続の十分な速度のネットワーク環境と自分のスマホを使うことができた世代です。この世代は、『リアルではないもの』を嫌う傾向が強く、自分が知っている誰かの体験や言葉をリアルだと考えます」

ソーシャルメタバースは実際に会っている感覚を持てることに加えて、アバターを使って自分がありたい姿を選べることが魅力だと話します。

質疑応答では、会場からの「メタバースに街を作る上で障壁となっていることは?」という質問に、水瀬氏が「居場所としてのメタバースという意味では一部は実現できていると思います。あとはそれをいろいろな世代にどう普及させていくか、どう現実に落とし込んでいくかが課題」と答えました。

さらに、午後には参加者同士による座談会やMetaverse Japanのスタッフによる個別相談会も行われ、普段はあまり聞く機会のない他地域の自治体の実態を聞いたり、情報交換したりする貴重な機会となっていました。

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