メタバースで広がる新しいスポーツ応援のカタチ
メタカープは、広島県による実証実験「ひろしまサンドボックス」の補助金を活用して始まった取り組みです。当初は、プロスポーツの新たな応援スタイルとして実証実験を開始。22年3月に広島東洋カープのファンクラブ会員専用のコミュニティ空間として「メタカープ」がスタートしました。
さらにシーズンオフには、ファン向けイベント「カープフェス」で三原市とのコラボレーションを行うなど、実証から実装へと拡大を続けています。
メタカーブを手がける「チーム広島」は県や市の職員、放送局員、VR企業の代表など業界もバラバラな人たちです。
「ひろしまサンドボックスは広島県がデジタル技術の活用を目的として始めた取り組みです。新型コロナが広がった2020年、スポーツ推進課は県内のプロスポーツチームの収入が確保できる新たな観戦や応援スタイルの提案を公募しました。 その結果、採択されたのがバーチャル空間を使ったファンとの交流の場だったのです」(平河氏)
メタカープの原型が生まれたのは、まだメタバースという言葉がなかった時代。類似のサービスも少なく、実証のプロセスでは手探りが続きました。
「どんな形にしたら盛り上がるのか、デザイン・イベントを含めて頭を悩ませました。 最初に作ったものは未完成ともいえる状態でしたが、そこで試行錯誤したおかげでメタバースの強みや弱みが分かりました」(波多間氏)
「当初は利用者数を5万人と想定していたのですが、実際の利用者数は5000人でした。課題分析を行い、WindowsPCからしか利用できなかったところにスマホアプリの提供を開始するなど、アクセスしやすい環境を整えました。イベント開催しながら何がバーチャルに合っているかを探っていったという感じですね」(平河氏)
試行錯誤の結果、「メタカープ」はカープ公式のアプリとして採用されました。
「誰でも使えるようにVRゴーグルを必要としない仕様にしています。アバターのモチーフは、チームのマスコットキャラクターの『カープ坊や』です。リアルなスタジアムでの応援に制約がある中でもメタバース空間では思う存分応援してもらいたいという思いから、モーション機能を使ってカープ名物の『スクワット応援』を再現したり、風船を飛ばしたりできるようにしました。また、実際のマツダスタジアムをモチーフに再現した空間には、空中にトロッコを走らせたり、中に入って遊べる『ふわふわドーム』を設置したりしています」(波多間氏)
運用面で大変なこともあったと佐藤氏は語ります。
「カープのホームゲーム70試合すべてを視聴できるようにしていたので、試合のある日はひたすら待機しないといけない……結果的に毎試合1000人以上が訪れる環境に育てることができました」(佐藤氏)
「何が何でもアピールしたい」三原市の情熱が成功をもたらした
シーズンオフになってから、メタカープをフル活用したのが三原市でした。
同市はだるまやタコなどの名物もあり、風光明媚で観光にもぴったりな町ですが、他地域の名物や観光地におされて埋もれている状況があるといいます。
「メタカープなら三原市をもっといろいろな形でアピールできるのではと思い、佐藤氏に相談しました。すでにシーズン中の試合は終わっている時期だったのですが、12月にカープフェスがあると聞き、すぐに参加を決めました」(増田氏)
バーチャル空間でのカープフェスは、新たに開発された「メタマツスタ」を利用して一般ユーザーも参加できる形で開催。
「三原を宣伝するためならできることは全部やるという思いでした。ちょうど12月だったので、ふるさと納税を紹介する屋台をたくさん並べ、カープ選手のトークライブの合間にガンガンCMを流しました。オリジナルのTシャツを作って参加者に着てもらい、タコ風船を会場のあちこちに飛ばすなど、ともかくいろいろな取り組みを行いました」(増田氏)
7時間のイベントには入場者1168人が入場し、ふるさと納税屋台のクリック数は1104回という結果に。ふるさと納税の申し込み額は、2021年が9360万円だったのに対して、2022年には1.5億円と大きく数字を伸ばしました。
「ふるさと納税に関しては他にもさまざまな施策を行っているので、すべてがメタカープの影響ではないかもしれませんが、効果は大きかったと確信しています」(増田氏)
最後に波多間氏が、チーム広島の今後の展望を次のように語りました。
「メタバース上で人を集めることには成功しましたが、メタバースはまだまだ発展途上で、普段使いをする段階にまでにはなってません。これからもチーム広島はXRやデジタルツインを使って、地方創生の成功例を作っていきたいと思っています」(波多間氏)