メタバース×医療の可能性は?


日本は少子高齢化の波の中で、デジタルヘルスの社会実装が急がれています。このセッションでは、メタバースは医療の世界をどう変革していくのか、データ医療やVRは、患者の人生や医療従事者をどのように変えていくのかについて語られました。

馬渕 邦美 氏:PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員 元 Facebook Japan株式会社 執行役員(左)
宮田 裕章 氏:慶応義塾大学 医学部 教授(中央)
杉本 真樹 氏:Holoeyes株式会社 代表取締役CEO 帝京大学冲永総合研究所Innovation Lab教授(右)


杉本氏が率いるHoloeyes株式会社では、サービス提供に加えてデータベース化にも重点を置いているといいます。

「医療現場のように制限が多い分野では、VRやAR・MRの技術は必須です。メタバースを活用することで、接続するすべての人に情報を共有できるようになります。多くの専門医が携わるカンファレンスでも意見の集約が容易になり、空間データとして記録が可能です。記録を空間データとして残すことで、さまざまな角度から見直すことができ、今まで数値化できなかった外科医の手の動きなどの追体験も可能になります」

また、実際の患者データについても、「空間」で捉えるのがポイントになると杉本氏は言います。

「空中に投影された画像は、患者自身の身体に重ねて手術ができます。あくまで空間に投影されているものなので、つかんでも消毒の必要もありません。手術本番だけなく、計画段階やトレーニングでも患者データを活用できます。さらに、データの最適化も可能で、たとえば臓器別に色分けすれば、処置する箇所が非常に分かりやすくなります」

杉本 真樹 氏


杉本氏のプレゼンを聞き、メタバース×医療の可能性を宮田氏は次のように語ります。

「いずれは医療版テスラのような企業が出てくると思います。とはいえ、すぐに自動手術が主流になるわけではなく、まずは要素的なものを具現化して集め、それらを戦略的に統合していくプロセスが必要になると思います。そういった意味で、杉本さんがおっしゃった3Dの手術情報の統合は非常に重要な第1歩といえます。そのほかにも、ディープラーニングによるアシストなどの要素技術も出始めています。これらのデータを積み重ねていくことで、その先の1歩に繋がっていくはずです」

 

地方にこそ、新しいアプローチのチャンスがある


地方自治へのアプローチとして、中東諸国の事例とともに杉本氏はこう語ります。

「中東では国を挙げてメタバースやXRを盛り上げる政策がされています。法人税などの税金を減額または撤廃し、企業誘致を推進しているんです。特にサウジアラビアでは、実世界とメタバースが共存する世界を2030年までに作る計画が政府主導で進められています。自分たちで何を作り上げていくかを考えることが、地方自治におけるメタバースの活用として重要な考えだと思います」

また宮田氏は、離島や地方などが危機に直面した際にチャンスがあるといいます。

「ルワンダでは、ドローンを使って病院から患者宅に薬を届ける配送システムが導入されています。いずれ技術が洗練されていけば、日本でも同様のことが実現する未来が来るはずです。特に離島や地方など危機に直面したところでは、遠隔医療などの新しい技術が必要になってくるでしょう。これらの話は、四国ではすでに出ていて、危機をチャンスに変える可能性を秘めていると確信しています」

宮田 裕章 氏

 

「課題先進国・日本」から世界へ

課題先進国である日本として、各自治体から世界へモデルケースを示す姿勢を求められていると宮田氏は語ります。

「少子高齢化や人口減少は世界の未来であり、世界的にも高齢化は間違いなく進んでいきます。だからこそ、諸外国は日本の動向を注視しているんです。そのため、自治体はそれぞれが抱える危機と向き合った時に、どれだけチャレンジをしていけるかが求められています。地域ごとに合ったチャレンジを行い、日本各地にいる技術力の高い人材と繋がれるチャンスを活かしていければいいのではないでしょうか」

 

データとAIの活用で医療に起きる変化は?


医療における患者データ活用の現状について、杉本氏は「これまで閉じられていた患者データを共有し、医療分野の発展に役立てる準備段階」にあるといいます。

「医療機関は患者の個人情報だという理由で活用に消極的ですが、治療を終えたがん患者さんなどは、逆に自身のデータを使ってほしいといってくださる方も多いんです。そこで、個人情報が特定できないポリゴンの形に変換して流通するシステムで特許を取得しました。年齢や疾患、実施した手術、予後などのデータさえ集まれば、個人情報を公開せずとも、医療に役立つ有用なデータとなります。今はそのためのデータベースを作る時期なのだと思います」


さらに話題は、AIの活用による技術の進歩にも広がりました。宮田氏は、「ジェネレーティブAIを使うことで、臓器のモデルなどの3Dイメージを作ってそれを補足する仕事が圧倒的に簡略化される可能性がある」と期待を寄せます。

それに対して杉本氏は、実例を交えて次のように話します。

「AIを活用して、2つの患者データをかけ合わせて新しい患者データを作ったり、手術方法を無数にシミュレーションしたりする取り組みはすでに進めています。さらに最近は、ゲノム解析によってその人に効果のある抗がん剤を選ぶなどの取り組みも進んでいます。ゲノム解析で人間をある程度データ化することで個別化に対応し、さらにそのデータを使って学習を行うことで、症例や手術方法、外科医の技量などから患者が主治医を選ぶことも可能になるはずです」

 

メタバース×医療の未来


メタバースがすでに実現している医療の未来について、杉本氏はこう語ります。

「10年ほど前から、医療の領域を解き放つ『医療解放構想』を掲げてきました。今後は医療という閉じた専門領域を、一般の人が家族単位などで担っていく時代がくると思います。その社会を実現するためにも、情報は公開されているべきです。将来、医師のいらない世界がくればいいなと思っていますが、『アバターは病気をしない』という意味では、すでにメタバース空間ではその夢が実現できているのかもしれませんね」

最後に、長年医療業界で指摘されてきた課題をメタバースが解決するのではないかと宮田氏は期待を寄せました。

「メタバースを活用して、病院と人々の関わりや生きることをどのように支えていくのか、時代の転換点にあると思います。とくに、医療と介護の分断は長年にわたる課題であり、双方が寄り添うためにもメタバースは大いに役立つと確信しています」

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