場所:東京大学 先端科学技術研究センター 稲見・門内研究室
ファシリテーター:一般社団法人Metaverse Japan共同代表理事 馬渕邦美
鼎談者:
MVJLAB特別顧問/カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授 金出 武雄
MVJLAB長/東京大学先端科学技術センター教授 稲見 昌彦
MVJ理事/東京大学生産技術研究所 特任教授/建築家 豊田 啓介
第一章:AIとバイブコーディングが変える創造と学習の現場
馬渕
私、この4月から品川女学院という、教育熱心で先進的な中高一貫校で、中高生向けの授業を受け持つことになりまして。「デザイン思考」と「バイブコーディング」を組み合わせた授業をやろうとしています。 身の回りの困りごとを出して、それをどう解決するかというプロダクトのアイデアを作り、バイブコーディングでどんどんアプリを作ってテストする……という流れなのですが、テストでやってみたところ、女の子たちもやり方さえ分かれば、自分たちのアイデアでどんどんアプリを作っちゃうんですよね。それを見て、AIとバイブコーディングを使うことで、ものすごい天才的な女子中高生が出てくる可能性があるなと思いました。
稲見
この前マーガレット・ミンスキーに会った時に「プログラミング教育をどうしましょうか」という話をしたら、「暫定的にバイブコーディングと、あとはアンブラ(Umbra)でいいんじゃないか」と言っていましたね。
ハードウェアの気持ちは分からなくてはいけない。そうしないと、やはり物理層のことが分からないですからね。でも表現のためだったら、バイブコーディングを使いつつ、間の数理的なアルゴリズムなどはちゃんと勉強しましょうと。AIの力を借りながらやるにしても、これからの時代、言語を「本当の本当の本当に」キャッチアップし続ける必要があるのだろうかと。
金出
最近僕がよく使うストーリーがあって。昔、1900年代に自動運転をやったという話をしたら、最近の学生に「あなたは自動運転のプログラムを1行ずつ書いたんですか?」と聞かれたんですよ。
僕は「当然だろう、プログラムは1行ずつ書くものだ。例えばスピードを1km上げたかったら というラインがなければスピードは上がらないんだよ」と答えた。すると彼は「我々はそんなことしません。今はブロック図を書いて、各ブロックに対応するプログラムは用意されているので、その間の入出力を繋ぐのを適当にPythonで書けばできます」と言うんです。「ドクター、あなたが自動運転を全部書いたというのはすごいですね」と言えない感じなんですよ。そこでバカにされる(笑)。
稲見
かつて「コンピューター」と言えば計算をする「人」のことでしたが、それが機械に置き換わりましたよね。それと同じで、今までは人がやっていたプログラミングも、今はコンピューターがやるようになった。もしかすると「エンジニア」という定義も、技術職から「技術機」のようになっていくのかもしれません。
金出
そうだね。ただ、自動車も同じような状況になっていて。修理工場で本当に車を直せる(分解して修理できる)人はもう限られています。今は、会社が提供した診断プログラムを走らせて「どこどこのモジュールを変えろ」という指示に従って交換するのが基本。昔のようにパーツを外してどうこうする、という仕事は極めて限られている。そういう風になっていくのかな。
いろんなところに行って、デモを見て「すごいプログラムだな、1年くらいかかったかな」と思って聞いてみると、「3週間でできました」なんて返ってくる。
稲見
さっきお話ししたのは、空港からソウルのホテルに行くまでの間に、バイブコーディングで「ハングルの読み方練習ゲーム」を作ったという話です。夜に焼肉屋さんに行くまでの2時間くらいプレイしたら、本当に読めるようになりました。昔なら1週間かかっていたかもしれないことが、移動中の短時間でできてしまう。スピードが全然違います。
私も現役でコーディングをやっているかというと、だいぶ離れていて勘が鈍っていました。Pythonなどは環境構築からして面倒だと思っていたぐらいですが、エンジニアに戻った気がします。
しかも、結局バイブコーディングって、我々が教員として学生を指導していることとほぼ同じなんですよね。自然言語でレビューして、「もっとこうした方がいい」と指示を出す。バイブコーディングが学生と違うのは、AIは放っておいても勝手にやる気になって奇跡を起こすことはないですが(笑)、日々のコンサルティングのような振る舞いは共通しています。 我々が教員生活で培ってきた「レビューのスキル」こそが、実はバイブコーディングのスキルだったんだと感じました。しかもAI相手なら、夜中に思いつきでやってもいいし、マイクロマネジメントしても嫌われない。厳しいことを言っても大丈夫ですからね。
第二章に続く