実証実験に手応えを感じ、導入を決定

このセッションでは、メタバースの導入に向けた実証を進める豊田市の取り組みについて、導入の背景や進捗、今後の展望が語られました。

中村大樹 氏:豊田市 企画政策部 未来都市推進課 先進事業推進担当 主査(左)/ 水瀬ゆず 氏:一般社団法人プレプラ 代表理事(中央)/ 長田新子 氏:一般社団法人Metaverse Japan 代表理事/一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長(右)

中村氏はまず、豊田市がメタバース導入を検討した背景として、「社会情勢」「心理的距離」「身体的距離」の3つの要素を挙げます。

「2021年にFacebookが社名をMetaに変えたことを契機にメタバースが注目され、企業や自治体での活用が一気に広がりました。また、新型コロナウイルスの影響で人々の間に生まれた心理的な距離や、豊田市の広大な面積によって生じる物理的な距離の解消にもメタバースが役立つのではないかと考えました」

豊田市では、2023年度に3つの分野でメタバース導入に向けた実証実験を実施。その結果、自己表現の負担が軽減されるなど、メタバースが有効に機能することが確認されたといいます。

中村大樹 氏

さらに、メタバースが将来的に重要な社会インフラとなる可能性があることや、経済成長の見込める領域であるという調査結果が出たことも導入の決定を後押ししました。

「市役所内でも、さまざまな部署でメタバース活用のニーズが出てきています。教育や産業、不登校支援など、多くの分野で活用が期待できることから導入を決めました」(中村氏)

ビジョンを掲げ、地域全体で使えるものをめざす

豊田市のメタバース導入にあたってのサポートに携わる水瀬氏は、豊田市の取り組みの特徴として「ビジョンを打ちだしていること」を挙げます。

「自治体のメタバース導入では特定の課題解決に焦点を当てているケースが多いのですが、豊田市は単なる個別のプロジェクトではなく、未来に向けて投資としてメタバースを導入し、包括的に活用していこうとしています。これは他の自治体とは異なる視点だと思います」

水瀬ゆず 氏

導入にあたってのビジョンを掲げた背景として、中村氏は「さまざまな部署や団体が使える共通のプラットフォームづくり」を挙げます。

「特定の目的に振ってメタバースを導入すると、別の部署では別のプラットフォームを使ったメタバースが作られ、“豊田市のプラットフォームが2つできてしまう”といったことが起こりえます。地域全体として包括的に導入を進めるためにビジョンを作ることになりました」

豊田市をフックにメタバースを広めたい

豊田市では、2024年11月末を目途にメタバース空間を構築し、12月から翌年3月にかけて、各部署がその空間を活用してイベントを実施する予定です。また、企業に対しても空間を貸し出し、メタバースの実証実験を進めていく計画です。

中村氏は、「豊田市をフックにメタバースそのものの認知度を高め、活用を推進できたら」と意欲をみせます。

自治体における導入をよりよく進めていくためには何が必要なのでしょうか? 水瀬氏は、自治体だけでメタバースを推進するのは限界があるとし、地元企業や他の団体との協力が重要であることを指摘しました。地域全体が一体となってメタバースを活用し、成長していく必要があるといいます。

そして、自治体だからこそ意識しなくてはならないこともあります。中村氏は、「市民の税金を使用しているからこそ、慎重に効果検証を行い、進めるべき部分と引くべき部分を見極める必要がある」と話します。

水瀬氏は、メタバースを一時的な流行に終わらせないためには、具体的な目的とメリットを明確にすることが重要だと述べます。

「そのうえで自治体としてのベストプラクティスを作り、それをMetaverse Japanとして吸い上げ、効果検証を含めて政策提言などに生かしていくことが大事だと思います」

2030年を見据えてメタバース活用を推進

セッションの最後に、中村氏は今後の展望について次のように意気込みを語りました。

「2030年を目指して、メタバースをより活用できる未来を作りたいと考えています。今ある活用分野だけではなく、経済性などの新しい部分も含めた価値を創造していけたらと思います」

水瀬氏は、メタバースには多くの人の協力が不可欠だとして、ワーキンググループへの参加を呼びかけました。

「本当に大切なのはいろいろな方と共創していくことです。ワーキンググループやイベントを通じて、皆でメタバースを盛り上げていきましょう」

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