誰もが可能性を発揮できる場としてメタバースは大きな可能性


このセッションでは、SDGsの推進にメタバースがどのように貢献できるかについて、不登校支援の実例を軸にディスカッションが行われました。

長田 新子 氏:一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長(左)
上田 泰成 氏:経済産業省 経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課 課長補佐(産業戦略担当)(中央左)
水瀬 ゆず 氏:一般社団法人ゆずタウン 代表理事 株式会社ゆずプラス 代表取締役・合同会社アシュトンラボ COO副社長・メタバース不登校学生居場所支援プログラム主宰(中央右)
山口 有希子 氏:パナソニック コネクト株式会社 執行役員 常務 CMO/デザインセンター担当役員/DEI担当役員/カルチャー&マインド推進室 室長(右)


最初に上田氏は、日本政府としてのSDGsへの取り組みを次のように紹介しました。

「2016年に全閣僚を構成員とする『SDGs推進本部』を設置し、民間セクターや有識者、国際機関のJETROなどと共に指針を定め、日本のSDGsを推進してきました。そのなかで優先課題としていることの1つに、『あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現』があります」

不登校だけでなく、さまざまな人が自身の可能性やポテンシャルを最大限に発揮し、自己表現できる場として、メタバースには大きな可能性があると上田氏はいいます。

上田 泰成 氏


また、山口氏は、企業におけるダイバーシティ経営の重要さを強調します。

「1人1人が自分らしく最大限のパフォーマンスを出すことを考えたとき、企業のカルチャーが本当に健全でないといけないと思います。では、健全なカルチャーとは何かと考えると、人権を尊重することがものすごく重要になります」

ただし、そういった環境やカルチャーを作ることは簡単なことではありません。「だからこそ、日本全体でチャレンジしていかなければならないテーマ」と山口氏は語ります。

 

VRChat内で不登校生向けプログラムを実施


水瀬氏は、広島市と提携して実施した不登校支援のプログラムについて紹介しました。これは2022年9月〜10月に2週間のプログラムとしてVRChat内で実施され、広島市内の不登校生が参加したものです。

「1回1時間のうち前半30分はメタバース空間内でクリエイターをはじめとしたさまざまな人の話を聞く時間、後半30分はワールド巡りなどをしながら講師やメンター、他の参加者と交流する時間とする構成で、プログラム終了時には修了式も行いました」

水瀬 ゆず 氏


プログラムの目的は、「メタバースでの活動を通して不登校生の居場所を作っていくこと」だと話す水瀬氏。23年夏には、企業とタイアップしてのイベントなども実施しながら、実施期間を2か月に拡大したプログラムを20人規模で実施する予定とのことです。

 

メタバースでのウェルビーイングを考えることも必要


不登校支援活動に携わる山口氏は、日本の不登校の現状についてデータを紹介しつつ「確実に増えている」と説明します。

「不登校の小中高校生は、公に発表されているだけで30万人といわれています。また、引きこもりは少し古いデータで115万人、在宅をベースに生活されている障害者が2914万人という数字もあります」

このほかに、外出しづらくなった高齢者なども含めるとかなりの数の人たちが、さまざまな理由で自宅からあまり出ることなく生活している現状があるといいます。そのような人たちにとって、メタバースは大きな可能性があると山口氏は話します。

「不登校の子どもは、自分が不登校になってしまったことに罪悪感をもち、自己否定感を強めてしまっていることも多いです。そのときに、安心な場所で友だちと一緒に何かができる、相談ができる第三のコミュニティがあれば、そこでの体験が経験値となって、自分を信じることに変わっていくのではないかと感じています」

山口 有希子 氏


上田氏は、若年世代の感覚としてメタバースが受け入れられやすい状況にあることを指摘します。

「Z世代やα世代は、パンデミックや戦争などのニュースで現実の世界に疲れている感覚があると思います。自分達のフロンティアをリアルに求める必要はないと考え、バーチャルの世界で自己実現する動きが生まれているように感じます」

大きな伸びしろをもつ一方で、バーチャル空間での可処分時間が長くなっていくからこそ、「デジタル空間でのウェルビーイングのあり方を考えていく必要もある」と上田氏は指摘します。

 

リアルとの接点をいかに持たせるか


セッションの最後には、登壇者それぞれが、これらの問題にメタバースをより活用していくために必要なことや、今後の展望などを話しました。

「これは不登校生だけの問題ではないと思っています。メタバースのよいところ、悪いところをしっかり理解したうえで、メタバースを通じて何がよくなるのか、どんな効果をもたらすのかを引き続き模索して、どんどん社会実装していきたいと考えています」(水瀬氏)

「メタバースとリアルの接点をどうやって持たせていくのかは、メタバースが浸透するうえでも重要になると思います。たとえば、今回の不登校支援のようなケースなら、先生が貢献度に応じてリアルでもフィードバックをもらえるようなしくみがあるとリアルとバーチャルの好循環を生み出せるかもしれません」(上田氏)

「不登校だけでなく、今の世の中には本当にいろいろな課題があります。メタバースという新たなテクノロジーを使ってそれを解決する可能性が見えてきたことはとてもよいことですが、同時にその世界が安心安全であることが不可欠になります。先ほど挙がったウェルビーイングの話や、そのなかで子どもたちが搾取されないようにすることなどはとても大切だと思います。そういった部分も含め、テクノロジーへの知見が深い人と、そのテクノロジーを社会実装しようと考える人たちが協力しながら進めていくことが重要だと改めて感じました」(山口氏)

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