サイバーエージェントがメタバースショッピングに進出

「メタバースのバーチャルショップに関わる人材は、デジタル畑出身ばかりと思われがちですが、1級建築士の資格を持つ人、リアル店舗に携わった人など、色々なバックボーンを持った人が集まっています」と語るのは、サイバーエージェントグループが今年立ち上げた株式会社Cyber Metaverse Productionsの事業責任者である中野英佑氏です。

中野英佑 氏 株式会社Cyber Metaverse Productions 事業責任者

サイバーエージェントは2017年にフルCG事業、2018年にはスキャン事業、2020年にはバーチャル撮影、バーチャルイベント事業に参入して3DCGやXRに関する技術を磨いてきました。

そして、今年2月に満を持して株式会社Cyber Metaverse Productionsを創設し、メタバースショッピング事業に進出しました。同社のミッションは「未来のショッピングを『ソウゾウ』する」ことです。

このステージでは、中野氏に現在同社で取り組んでいるメタバースショッピングの現状と、未来の可能性について語っていただきました。

会場のモニターに映し出された空間は現実のショップさながらのリアルな立体空間。ジョイスティックを操作しながら、店舗内を回ることができ、目にとまった商品は取り出して、買い物もできます。実店舗を撮影したデジタルツインの店舗とは異なり、すべてをCGで作っているため一部屋ずつオリジナルの空間を作り出すことができ、ブランドの表現がしやすいことも特徴だと言います。

表現やコミュニケーションを拡張できる

中野氏の話はECショップの創世記にまでさかのぼります。

「2000年代に出現したAmazonや楽天市場などのECサイトは、リアル店舗にあった立地や営業時間などの物理制約を解消し、大幅なコスト削減、サービスの進化など、ショッピングのあり方を変革させました。その半面、リアル店舗が持つ商品・サービスの体験やコミュニケーションの部分はおざなりにせざるをえませんでした」

メタバースのバーチャル店舗では、これらECサイトの弱点だった“商品・サービスの体験”や“コミュニケーション”を補い、空間制約の解消や3DCGを駆使した世界観の表現で、リアル店舗でもなしえなかった顧客体験を実現すると言います。

中野氏はメタバースショッピングのメリットのひとつとして、「表現の拡張」を挙げます。

「静的な2次元で構築されていたサイトが動的な3次元の空間になることは大きなチャンスです。最近はネット中心に展開してきたD2C企業があえて実店舗を出すなど、顧客との接点となる場に対するニーズが高くなっていますが、リアル店舗を持てる企業ばかりではありません。その場合も、バーチャルで店舗を活用することで、いろいろなチャレンジができます」

また、「コミュニケーションの拡張」もメタバースのメリットだと中野氏は話します。

「メタバースでは、田舎に住んでいるおばあちゃんと一緒に同じ空間で買い物したり、同じブランドのファン同士で交流したりと、世界中のどこでも誰とでも体験を共有できるようになります」

より高精度な試着や芸能人アバターを使った接客にも可能性

バーチャル試着にも大きな可能性を秘めていると言います。「今は身長などのデータを入力して3DCGのサイズを変えている状態ですが、今後技術の発展でスマホ撮影でボディスキャンできるようになったりすれば、より的確に試着できるようになると思っています」

また、アバターを使った接客も積極的に導入していく予定だと話します。サイバーエージェントグループが手がける芸能人などの公式3DCGモデルを制作し、広告やポスター撮影などに活用する「デジタルツインレーベル」とも協業し、タレントのデジタルツインモデルが接客するような仕組みも作っていきたいと語ります。

取得データの活用にも期待

さらに、メタバースショップで取得できる膨大なデータの活用にも期待を寄せます。

「メタバースでは、ユーザーの行動や視点の移動など、バーチャル空間ならではの情報が取得できます。そのことでデータに基づいた商品の管理だけでなく、ユーザーに合わせて空間自体を変化させていくことも可能になります。建築家・隈研吾さんを顧問に迎えた『メタバースアーキテクチャラボ』では成長して変化していく建物・空間作りにチャレンジしています」と中野氏。

経済産業省のデータによると日本のEC化率はわずか8%であり、中野氏はEC市場にはまだまだ飛躍できると語ります。

「Cyber Metaverse Productionsは未来の当たり前を社会実装するクリエイティブパートナーとして、あらゆる商取引のデジタル化の実現にチャレンジします」という言葉で、中野氏はステージを締めくくりました。

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