■『メタバースの保険』は今後重要なインフラになる
セッションではまず楢崎氏が、SOMPOホールディングスで試験実施を予定している、スマートコントラクトに対する保険サービスの取り組みを紹介。
「個人や企業の活動で生じるさまざまなリスクを減らすことが保険の役割ですが、そのリスクはメタバースやWeb3の世界でも今後出てくると思うので、そこに対して取り組みを進めていきたいと考えています」と話した。
それに対して山口氏は、「BtoBビジネスにメタバースやWeb3を取り入れる場合でも、詐欺などを含めて心配なことは多い。メタバースの世界での保険は本当に重要なインフラになると思う」と賛同。
加納氏はブロックチェーンを専門に扱ってきた視点から、Web3とメタバースがどう接続していくかを次のように分析しました。
「メタバースにはグラフィカルな世界観は絶対必要です。たとえば、コマンドラインのような文字だけで表現されたもので没入感を得ることは難しい。一方で、ブロックチェーンの世界ではグラフィカルな部分はさほど注目されない。メタバースの持つグラフィカルな部分と、ブロックチェーンが持つ改ざん耐性などの特徴が融合することで、新しいものが生まれるのではと思っています」(加納氏)
話題は金融業界でのメタバース活用の可能性にも広がりました。加納氏は、「やはりグラフィカルなユーザーインターフェースが鍵になる」としたうえで、想定できる活用例を紹介。
「銀行が高齢者のためにリアルな窓口を維持しようとすれば、大きなコストがかかる。そこで、VR空間に作った支店の中で職員が対応するといった使い方が考えられます。本末転倒の感もありますが、人間的なインターフェイスを求める方への対応として、リアル店舗に比べて低いコストで運用できるはずです」
さらに、それはBtoBサービスについても同様だとして、「バーチャル店舗はデジタルデバイドのサポートになる可能性がある」と加納氏は言います。
「面白いし、現実的だと思う。保険業界にも省力化のニーズがあるので同じ方法が活用できそう」と楢崎氏。
そして山口氏も、「高齢者の情報格差を解消する方法として、バーチャルで人と接する体験にはいろいろな可能性がありそう」とを期待を示しました。
■サプライチェーンでメタバースはどう役立つか?
山口氏は、パナソニックコネクトが買収した米国のサプライチェーンマネジメントのソフトウェア企業、Blue Yonderについても紹介。
「物を作る・運ぶ・売るというサプライチェーンにおけるデータを現場から吸い上げ、それをAIで分析してプロセスの最適化を行っています。今後サプライチェーンがメタバースやWeb3の世界になったとき、いろいろな可能性が生まれてくると考えています」
その可能性として、「デジタルツインの世界をつくり、その中でオペレーションプロセスなどを最適化できる」「商品の購買ポイントにメタバースが加わることで、購買行動が変化する」「トレーサビリティなどにブロックチェーンテクノロジーを活用できる」の3点を挙げました。
それに対して加納氏は、サプライチェーンとECにおける“逆パラダイムシフト”の解消につながると指摘。
「ECは欲しいものが決まっていてそれを購入し、その購買傾向に基づいておすすめ商品が表示されるなど、欲しいものがどんどん圧縮されていく構造になっています。一方で、リアルな店舗では、本屋で偶然視界に入った本を手に取るなど、それまで全く興味のなかったものと出会う機会があります」
実店舗でウィンドーショッピングをするようなUXをリアルな世界から逆輸入することで、“偶然の出会い”をECでも実現できるようになり、さらにそれはサプライチェーンも同様だと言います。
「たとえば、工場で使う素材を発注する場合などに仮想空間内でリアルな商品を確認できるようになれば、誤発注を減らすことにもつながりそうです」(加納氏)
■スピード感を上げて取り組むには?
メタバースやWeb3に限らず、テクノロジーの世界はスピードアップを続けているため、そのスピードにいかについていくかも重要な課題です。
楢崎氏は、スマートコントラクトの保険についてのプロジェクトを始動したときの社内の反応について、「絶望的なくらい理解していない人ばかりだった」と振り返ります。
「勉強会を開いて私自身でレクチャーを行ったのですが、今話したことは来週にはもう古くなっているかもしれない。そういった事情もあり、ある程度のとこまでいったら『後は私に任せてください』という形で進めました」
加納氏は、「日本の大企業のシステムは、スピード感をもって動くことがどうしても難しい。一方で、ベンチャーなどの若者はそのスピード感を強みにできるので、どんどん突き進むことをおすすめします」と若者へのエールを送ります。
山口氏は、スピードについていくためには学びが大切だと強調しました。
「まずはきちんと理解して、それらの技術が自分のビジネスにどう絡んでくるのか、どんなビジネスモデルが作れるのかをイメージすることが重要です。私たちもそういったチャレンジの真最中なので、同じように挑戦したいと考える皆さんと繋がりながら一緒に考えていけたらと思っています」