日本初のメタバース特化型アクセラレータープログラム

アクセラレータープログラムは、事業会社や自治体がスタートアップ企業などの新興企業に出資や支援を行うことで、事業共創を図るプログラムです。このセッションでは、ディップ株式会社(以下、ディップ)はこのほど、メタバースに特化したアクセラレーターとして立ち上げ、プログラムへの参加企業を募っている取り組みについて、その事業内容や可能性を語りました。

進藤圭 氏 ディップ株式会社執行役員

進藤氏は冒頭、メタバースアクセラレーターを始めた背景として、『夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる』と掲げた企業理念や、人材とDXの両サービスを通じて労働市場の問題を解決するビジョンが関係していると説明。企業理念やビジョンに沿い、東京都やGoogleへの技術支援を手がけるなか、「メタバースもテクノロジーの一つ。社会改善のパワーにしたい」と思い立ち、プログラムの立ち上げを決めたと言います。

1万人調査で判明したメタバースへのあふれる希望

メタバースへの期待感は社会的に高いとはいえ、認知度はまだまだ低いのが実情です。それを踏まえて進藤氏は、ディップがメタバースのイメージ調査を目的に実施した「メタバース1万人調査」について紹介しました。

進藤氏によると、さまざまな職業で構成された全国1万500人を対象にアンケート調査を実施した結果、回答者の半数がメタバースという言葉を認知していると判明したと言います。進藤氏は、この結果について、「知らない人が多いのではないかと思いながら調査したが、50%という結果には驚いた」と強調しました。

加えて、進藤氏はメタバース技術に期待するユーザーの声に関する調査結果についても紹介。「お金を気にしなくてよい世界」が26.2%、「住んでいる場所を気にしなくてもよい世界」が25.9%などとなったことから、「居住や容姿、金銭に関わる制約を解放したいのがユーザーの声」としたうえで、「メタバースでこういう世界を作ってほしいと意思表示するユーザーが多く、メタバースへの希望はあふれている」と語りました。

メタバースで労働問題を解消

メタバースの意識調査を踏まえ、ディップがまずメタバースで解決したいのは、労働問題だと言います。進藤氏は、日本の労働人口が減少フェーズにあり、労働力不足で稼げない時代になっていることから、「年齢や容姿、性別、居住などにもかかわらず、働ける世界を作りたい」と説明しました。

ディップはすでにメタバースの研究開発を進めているとのこと。反面、自社の独力で開発を実現するのは難しい事実にも直面。そこで始めたのが、メタバースアクセラレーターだと言います。

進藤氏は講演中、メタバースアクセラレーターの成功に自信をのぞかせました。自信の根拠にあるのが、すでに10期の実施経験のあるAI(人工知能)特化のアクセラレータープログラム「AI.Accelerator」です。プログラムの採択企業100社のうち、80社以上が総額60億円の資金調達を実現しており、「(メタバース分野に)AI.Acceleratorのノウハウをそのまま注入すればよい」と語りました。

メタバースアクセラレーターで手がける4つの事業

では、実際にメタバースアクセラレーターでは、どういった事業を展開するのでしょうか。具体的には『投資実行』『経営支援』『技術支援』『営業支援』の4つです。そのうち、投資実行では、最大1億円の出資や事業提携といった投資を実行するとのこと。進藤氏は、「メタバースはインフルやゴーグル配布などに莫大なお金がかかる。そこで投資を我々が実行します」と強調しました。

経営支援では、AI.Acceleratorで100社以上支援した経験、バイトルなどを育んだノウハウをもとに投資先へハンズオン支援を手がけるほか、技術支援では、AIや機械学習、ディープラーニングといった技術の支援を行うと言います。また、営業支援では、出資や事業提携の際にディップの全国の40拠点、1200人以上の営業メンバーを中心に顧客開拓を実施すると言い、進藤氏は「メタバース普及に向けたキャズム(溝)を超えていくために、営業支援をするのが我々の役割」としました。

日本は再びテクノロジーで世界最高の現場を作れるという確信

最後に進藤氏は、現行の少子化対策、人口増政策は将来の年金を補填できない社会問題が大きいことから、ディップがテック事業にこだわっているのだと事業全般の背景を説明しました。

「日本は出生率が下がり、少子高齢化が底を打っている。そうしたなか、外国人の受け入れも進んでいるのだが、年金の原資が全然足りないという状態だ。このため、日本はテクノロジーでレバレッジをかけないと生きていけない。テクノロジーは日本、そしてディップの成長戦略であると考えている」

しかし、前例踏襲主義など悪弊がはびこり、日本のDXは官民ともに思うように進んでいません。それでも、進藤氏は、世界最高水準の車両開発技術を持つトヨタ自動車などを引き合いに、日本は再びテクノロジーで世界最高の現場を作れるという確信があると強調しました。

「メタバースの普及は最初遅れるかもしれない。しかし、大きな波の方向性は変わらない。まさに、ソフトバンクの孫正義社長がしきりに唱える『でも、そんなものは大きな流れのなかでは誤差だよ』といった状態です。これを踏まえ、我々はメタバースを活用し、日本を変えることをぜひ皆さんと一緒にやっていきたいと思っています」

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