生成AIの性能を支える重要な技術
オープニングに続いて行われた最初のセッションには、東京大学 教授の松尾豊氏がビデオメッセージで登壇。「Generatibe AIの現在と未来」と題して、今大きな注目を集めている生成AIの現状と今後の可能性について語りました。
まず松尾氏は、AI(人工知能)における生成AIの位置づけとして、「AIのひとつの分野として機械学習があり、そのなかにディープラーニングとよばれる分野がある。生成AIで使われるデュフュージョンモデルや大規模言語モデル(LLM)、トランスフォーマーといった技術はディープラーニングに含まれる」と説明。
これらのうち、「デュフュージョンモデル」は、昨年夏頃からブームとなった画像生成AIの多くで利用されている技術です。画像にノイズを加えていく学習を行った後、ノイズから画像を復元する学習を行う教師あり学習の一種で、ノイズからさまざまな画像を作成できるようになります。
また、ChatGPTをはじめとした対話型の文章生成AIは、「トランスフォーマー」とよばれる技術がベースとなっています。これは、ニューラルネットワークのなかのどこに注目するのか、どこを重視して処理を行うのかを学習可能にしたもので、入力に応じたさまざまな処理を行えるようになります。さらに、「自己教師あり学習」によって、与えられたテキストに続く単語を予測できるようにすることで、自然な対話が可能になりました。
そして、もうひとつ重要になっているのが、データや計算能力、パラメーター数(モデルの容量)を増やすほど精度が向上していく「スケーリングロー」(スケール則)という法則です。この現象が知られるようになったことで、より大きなモデルを作ることができるようになっていきました。
さらに、人間のフィードバックによって誹謗中傷や差別的な発言を出力されにくくする「強化学習」を行うことで、多くの人が安全に使うことができるようになり、さまざまな場面で生成AIが活用される環境が醸成されました。
数学や小説も理解、ホワイトカラーのほとんどに影響
「多くの人が生成AIを活用するようになったことで、わずか半年ほどの間に新しい使い方が次々と生まれている状況にある」と松尾氏。なかでも興味深いのが、自己教師あり学習により数学や小説といった分野まで、ある程度の対応が可能になっている点だといいます。
「小説を学習元にした場合、次の単語を予測するには登場人物がこの後どんなことを言うのかを把握する必要があります。つまり、小説から学習する過程で人の気持ちを推測したり、心の理論を理解したりできるようになっていくのです。同様に、数学の解説書などから学習することで、数学の問題もある程度解けるようになっています。これは非常に興味深いことであり、今後世の中を大きく変えるものになっていくだろうと思っています」
「今後は、特定の目的に特化したChatGPTのようなツールも多数登場してくる」と松尾氏。「そういった意味では、ホワイトカラーの仕事ののほぼすべてに何らかの影響が生じる可能性が高い」と警告します。
3月にペンシルバニア大学から発表された論文では、労働者の80%が大規模言語モデルによる影響を受け、さらに、19%の労働者については、現在の仕事の半分で影響を受けるとされています。生成AIの登場はそれだけインパクトが大きく、しかも高賃金で参入障壁の高い業界ほど影響が大きいのです。
日本が勝負していくために何をするべきか
では、そのような時代に、日本としてどのような対応が求められているのでしょうか? 松尾氏は、「生成AIはどんどん活用していったほうがいい」と強調します。
具体的には、大規模言語モデルを自ら開発していくことや、APIを使って日本にローカライズしたアプリやソフトウェアを作っていくことが重要になるとのこと。さらに、「ユーザーとしてしっかり活用していくこと」も重要だといいます。
「生成AIは仕事のさまざまな場面で使うことができるので、個人としても組織としてもぜひいろいろな使い方を模索し、生産性を向上させるような取り組みにつなげてください。日本全体として、今後よりよい形で生成AIを活用していけたらと思っています」(松尾氏)