メタバース空間で学生向けワークショップを実施
このセッションでは、教育ワーキンググループのメンバーおよびアドバイザーが、教育や福祉の分野にメタバースを導入している最新事例、活動する中で感じている課題や展望について語りました。
小塩篤史 氏:麗澤大学 工学部 教授 / 東京大学大学院 情報学環 特任准教授 / 株式会社HYPER CUBE 取締役CTO(左)/ 水瀬ゆず 氏:一般社団法人プレプラ 代表理事(中央左)/ 東井尊 氏:東京書籍株式会社 教育DX局 DX事業創出本部 万博・ヴァーチャルアカデミー推進室(中央右)/ 宮崎亮 氏:大日本印刷株式会社 教育ビジネス本部(右)
麗澤大学の工学部には、メタバース空間とリアル空間を同期できるハイブリッドワークルームが設立されており、「メタバースに興味を持っている学生は多い」と小塩氏はいいます。
「ヘッドマウントディスプレイを装着してメタバース空間内に入り、Google Eathで地球を俯瞰しながら、街づくりのアイディアなどを議論する取り組みをしています。オンライン会議ツールとの違いに身体性や空間性を伴っている点が挙げられますが、どのような利点があるのかについて教育機関と連携しながらユースケースを作っていきたいと考えています」(小塩氏)
小塩篤史 氏
また、立命館大学が参画して展開する起業家教育の育成事業では、従来は対面で行われていたワークショップをメタバース空間で実施する取り組みが開始されました。参加者の学生たちにMeta Quest3などのデバイスを支給し、普段からメタバースを活用しているユーザーへのインタビューを実施。その意見をもとにユーザーに対してどのようなサービスを届ければよいか、新規事業を創出するための議論を行うワークショップとして実施しました。
「高校1年生から40代の大学院生まで幅広い年齢層が参加しましたが、グループワークのリーダーに高校1年生が立候補するなど、現実ではなかなか起こりえない光景が見られました。今後は、現実で実施した場合とメタバース内で実施した場合でどのような違いが出るのかについての効果も検証していく必要があるでしょう」(水瀬氏)
水瀬ゆず 氏
効果検証や大人への理解促進が不可欠
教育現場のさまざまな場面でメタバースが活用されるようになっている一方で、課題も生まれています。「メタバースは今も注目され続けている反面、ヘッドマウントディスプレイなどの環境要因も相まって使い続けてもらうのが難しい」と小塩氏は指摘します。
「ブームが終わり定着期に入った今だからこそ、メタバースでしか体験できないコンテンツが必要です。メタバースならではのおもしろいコンテンツやプログラムを開発し、学生と共同して効果検証していきたいと考えています」
義務教育の場でもメタバースの注目度は高く、特に不登校支援では大きな期待が寄せられていると東井氏はいいます。
「文部科学省の概算要求の中でもメタバースの活用を推進していくと明記されるようになり、予算もつき始めていることから、普及は加速していくと考えています。ただし、公教育として提供する以上、本当に教育効果があるのかといった検証が不可欠で、そこが課題になりますね」
東井尊 氏(左)、宮崎亮 氏(右)
宮崎氏は、教育現場にメタバースが普及していくための課題として「大人の不理解」を挙げます。
「教育委員会の人たちや先生、保護者などにはメタバースを十分に理解していない大人も少なくありません。空間を提供する側が理解しいないために子どもたちに情報が行き届かなくなってしまうので、認知を高めていくことが必要になります」
セッションの最後に水瀬氏は、今後の展望として次のように語りました。
「これまで、不登校支援の一環として心理的安全性を担保できる居場所作りを行ってきました。ただし今後はそれだけではなく、ソーシャルスキルや社会性を向上させるようなエビデンスベースのプログラムも必要になってくると思っています。あわせて、担い手を育成していくことも大事だと考えています」