まちづくりに必要な住民による街の解釈
このセッションでは、福岡県糸島市で行われているメタバースを活用したまちづくりについて議論が行われました。
馬場 貢 氏:糸島市副市長(上)/ 馬渕邦美 氏:一般社団法人Metaverse Japan 代表理事/デロイトトーマツコンサルティング パートナー/一般社団法人 Generative AI Japan理事(左)/ 奥出直人 氏:慶應義塾大学 AI・高度プログラミングコンソーシアム 特任教授(中央)/ 平野友康 氏:イトシマ株式会社 代表取締役、株式会社メタコード 代表取締役代表、テレポート株式会社 代表取締役(右)
まず平野氏は糸島市PJの取り組みについて「生成AIやメタバース、デジタルツインといった技術を積極的に取り入れ、今までにない画期的なまちづくりを研究実装するプロジェクト」と説明しました。
糸島市PJの中心となるのが、生成AIとバーチャルエスノグラフィーという「革新的な技術」と、市民や動物、自動車、場所などのアクター同士が影響を及ぼし合うことで空間や都市を形成する「アクターネットワーク理論」であると平野氏は話します。
平野友康 氏
この理論について奥出氏は次のようにコメントします。「これは参加型都市計画と言われているもので、住民が参加して自分の都市を作ることです。しかし現実の都市づくりにはデベロッパーが入ってきてしまう。生成AIを使って住民が参加し、都市を調査すれば、本質的な住民参加型の都市計画ができます」
次に慶応大学の学生チームによるバーチャルエスノグラフィー体験の事例が紹介されました。
「Google Earthやストリートビュー、Webで調べられるものを使い、慶応大学近くの日吉商店街をエスノグラフィー化する実験です。鳥の目や人の目、あるいは時空を超えた目で地形や建物を見ていくと、人間同士の関係だけでなく、地形と人間の関係も見えてきます。これを最新生成AIを使ってエスノグラフィーに記述し、さらにファクトデータを取り込むことで、自分なりの街の解釈ができ上がります」(平野氏)
「街を解釈できるようになって初めて、街を作っていこう、変えようという議論ができます」(奥出氏)
奥出直人 氏
今まで見えていなかったさまざまな事柄が見える人をどれだけ増やせるかが「都市計画やまちづくりのスタートライン」であると平野氏は強調します。
地方創生問題を解決する糸島サイエンスヴィレッジ
次に地域創生のロールモデルづくりを目的とした「糸島サイエンスヴィレッジ」について、馬場氏のビデオメッセージが紹介されました。
「福岡県の西隣に位置しながら、海や山、田園と言った自然に囲まれる糸島市と、イトシマ株式会社との官民パートナーシップにより、自然環境を守りながら最新テクノロジーを駆使して、持続可能な都市を作る。これが糸島サイエンスヴィレッジです。私たちにとって、生成AIやメタバースのような最先端技術を積極的に取り入れることは自然な流れです。この地域から未来の都市モデルを世界に向けて発信し、新しい時代の都市づくりに貢献していきたいと考えています」(馬場氏)
サイエンスヴィレッジは九州大学伊都キャンパスの隣にある50ヘクタールの敷地に、野球場ほどの大きさの「ユニット」をつなげて作る街であると平野氏が説明。
「ユニットには生成AIをはじめとする最新テクノロジーが搭載されたスターターキットが必要です。3年前からスターターキットの実証実験を行っており、ようやくすべての機能が動く状態になったので、今後は新しいユニットの開発に挑戦します」(平野氏)
さまざまなユニットによる先行事例を作ることで、参加企業と自治体がノウハウを共有しながら、国内外の地方創生における課題解決を目指す平野氏は「誰も解決できなかった地方創生の問題を我々なら解決できる」と語気を強めました。
住民の関係性とデジタルツールで都市計画を進める
続いて、これらの取り組みを推進していくにあたって必要なことについてのディスカッションが行われました。
馬淵氏が「まちづくり推進にあたってどのように求心力を作るのか」と尋ねると、奥出氏は「従来の都市計画は誰かが作った案を承認する必要があったが、これでは都市は作れない。現にすべて失敗している」と回答。
「失敗を回避するためには住民が主体的に参加するまちづくりしかありません。生成AIを用いて大人も子どもも参加して、自分たちで街を作るうちによい形になっていきます。実際に糸島の中学校と慶応大学で住民参加型都市開発の授業をしたところ、非常にクオリティの高いアウトプットが生まれました」(奥出氏)
続いて馬淵氏から「これまでにない都市計画のイテレーションを回すエンジンが必要なのでは」という質問に対し、平野氏は「生成AIで十分可能。生成AIの活用でさまざまなツールがすぐ作れるのでデジタル的な支援は実現できる。重要なのは関係性」と話します。
「スマートシティのスマートとは効率がよいことではありません。住民が住み続けたい、帰ってきたいと思えるような関係性がスマートなのです。そのためには街の人同士の関係性に加え、ツールとアプローチの方法論があれば回せるのではないかというのが、糸島での実験であり挑戦です」(平野氏)
最後に馬淵氏から登壇者にネクストステップについて質問がありました。
「生成AIを使って議論や表現などを作り出すリテラシー教育を仕上げたいと思います。デザイン思考やiPhoneが登場したときの驚きが今では当たり前になったように、生成AIを使った都市づくりが当たり前になるようにしたいですね」(奥出氏)
「日本中・世界中から参加できる生成AIの学校を12月に糸島市で開校します。興味があれば是非フォローしてください。2025年は生成AIの使い道を探し、ソリューションを生み出す年になるので、今から楽しみにしています」(平野氏)