メタバースの自立的な発展を支える“土台”をつくる
このセッションでは、メタバースを安全な場としていくための環境づくりについての、総務省の取り組みが紹介されました。
山野哲也 氏:総務省 情報流通行政局 参事官
メタバース市場は、世界・国内のどちらにおいても今後さらに拡大すると予測されています。そのような背景をうけ、「海外ではメタバースを安心・安全に使えるようにするためのさまざまな取り組みが実施されている。日本でも、ITU-TやOECDなどの標準化団体に積極的に参加し、国際的な共通認識を形成することを目指している」と山野氏は話します。
総務省による「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」では、メタバースを安全に利用するための『メタバースの原則(案)』を2024年9月に公開。また、それに対するパブリックコメントの募集も行われました。
山野氏は、メタバース原則を作成する背景について、以下のように説明します。
「メタバースの基本的なルールは、これまでユーザーが主体となって作ってきた歴史があります。国が細かなルールを作って強制する形はなじまないのです。だからこそ、メタバースを自主的・自律的に発展させていくための土台になるような考え方を作っていくことが必要だと考えました」
メタバースの原則では、安心・安全なメタバースを実現するために重要な要素として下記の3つを挙げています。
・メタバースが自由で開かれた場として提供され、広く享受されること
・メタバース上でユーザーが主体的に行動できること
・メタバース空間内において個人の尊厳が尊重されること
「総務省としては、この考え方をOECDの各国や民主主義を掲げている国に対して広げていき、世界共通の原則として作っていきたいと考えています」
メタバース市場は今後さらに伸びると予測
セッションでは、メタバースの技術的動向の紹介も行われました。
VR・ARデバイスの市場は、メタバース市場と同様に高い成長率で伸びると予測されています。アメリカでは若年層のVRヘッドセットの所有率が33%、週間利用率が13%という調査結果もあり、日本でも今後さらに浸透する可能性があると山野氏は話します。
また、VR・ARデバイスの方式については、没入型・ビデオシースルー型が主流となっており、年々デバイスの性能向上と軽量化が図られています。
さまざまな団体や自治体が取り組みをすすめる
市場拡大に伴って今後増加することが懸念されるメタバースでのトラブルについては、さまざまな団体が解決・防止のための取り組みが進められています。たとえば、メタバース推進協議会のセキュリティ分科会では、安心・安全なメタバースの実現・普及を目的に「メタバースセキュリティガイドライン(第2版)」を公表しています。
また、東京都では、小学4年生から高校3年生と保護者を対象に、実際にメタバース空間を体験しつつ、どのようなトラブルが起きるのかの理解を深めることを目的とした「メタバース教室」が開催されました。
最後に山野氏は、安心・安全なメタバースを実現するための今後の検討課題として、「まずは国際的な取り組みを醸成していくこと」「国際動向を把握し、各国と調整しながら整備を進めること」「リアルな空間とバーチャルな空間が融合した社会での影響への対応」の3点を挙げました。
「さまざまな没入型技術が人の身体や感情に与える影響をきちんと調べ、どんな方向性があるべきか、どんな対策を取るべきかという調査研究を始めたいと思っています。総務省の『メタバースの原則』についてはWeb上で細かい内容を読むことができるので、ぜひそちらもご覧いただければと思います」