中高生が世界中の人と出会い、語り合うメタバース部
香川県三豊市が取り組む「メタバース部」は、生徒数の減少で1校単位での部活動が成り立たない状況を受けて設立されたもの。複数の学校から生徒を集め、メタバース空間内で部活動を行っています。同市で教育センター長を務める小玉氏は、メタバース部のコンセプトについて次のように話します。
「中高生が世界中の人と出会いながら、気軽に偏愛を語り合うコミュニティにしていきたいと考えています。例えば、世界の食文化や料理に興味のある生徒がメタバース内でイベントを開くと、同じく興味のある人が地域、年代問わず集まって交流が生まれるのです」
小玉祥平 氏:三豊市教育委員会 三豊市教育センター長(左)/ 上田泰成 氏:三条市 副市長(中央)/ 杉本直也 氏:静岡県 デジタル戦略局 参事(右)
さらに、参加者が思い思いのアバターで参加することもよい効果をもたらしているといいます。
「アバターで自己表現をしていくなかで、自分の人柄が変わったり、リアルな世界でも自信がついてコミュニケーション能力が向上したりなど、よいことがあります。また、アバターは匿名なので安心感があり、学校ではなかなか表現しにくい自分の好きなものも存分に主張できるようです」(小玉氏)
小玉祥平 氏
メタバースの活用による関係人口の創出
新潟県三条市は大日本印刷(DNP)とPwCコンサルティングと連携協定を締結し、関係人口の創出の取り組みを実施しています。2024年9月には、実証事業として「メタバース市役所」も設置。同市副市長の上田氏は、この取り組みについて次のように期待を寄せました。
「役所への申請手続きや福祉に関連することはデリケートで表現しにくい部分もありますが、アバターなら匿名性が高いので相談しやすいですよね」
上田泰成 氏
さらに、三条市ならではの特色を生かした取り組みも検討しています。
「三条市はアウトドアが盛んなので、メタバース空間でもキャンプをするようなイメージで市民と職員、市議会議員、NPO法人などが自由に意見交換できる場を作っていきたいと思っています」(上田氏)
メタバース空間でリアルな体験を提供
静岡県のデジタル戦略局参事を務める杉本氏は、デジタルツインを活用した取り組みについてこう説明します。
「静岡県全域を航空レーザー測量でデータ化し、オープンデータとして公開しています。それを元にメタバース空間内に作られた富士山では、みんなでVR空間内で登山をして山頂でアバター姿で写真を撮るといったイベントも行われました」
杉本直也 氏
さらに、このデータを利用した「メタバース静岡」を作る取り組みも始めています。
「静岡県は面積が7777キロ平米もあって広いのですが、リアルではなかなか行きにくい場所もあります。そういったところのバーチャルツアーや、説明会や意見交換の場としての活用も進めたく、試行錯誤しているところです」(杉本氏)
市民や訪問者との関係継続のためにできることは?
自治体がメタバースを活用するなかで、コンテンツを充実させることや、市民との持続的な関係作りが重要であると各登壇者は語りました。とくに、NFTなどの活用が注目されています。
「どうやって三条市と関わりを持たせていくのか、そのインセンティブ設計が重要です。具体的にはNFTやトークンなど、何かしらの動機づけが必要と考えています」(上田氏)
「リアルとメタバースの接続が大事ですね。トークンのやり取りによってつながりが生まれれば、メタバース内で三豊市のファンのミートアップなどもできるかもしれません。”関係人口から株主人口にしていこう”という取り組みも始めています」(小玉氏)
自治体のメタバース活用における課題
自治体のメタバース導入が進む一方で、メタバース役所を実際に運用するにあたっては市民がアクセスする時間帯と職員の勤務時間のバランスや業務負担などの課題が残っています。上田氏は改善方法についてこう話します。
「やはりAIチャットボットの活用などの可能性が出てきますね。よくある問い合わせをAIに学習させて、申請の前提フローをAIで完了できれば、最終的には職員が対応する必要があったとしても、業務負担を減らせるのではないでしょうか」
杉本氏も同意します。
「自治体や制度に対する問い合わせって結構共通したものが多いですよね。こういった共通の話題や質問をみんなで集めてAIに学習させることで、実現できるかもしれません」
最後に、日々子どもたちと接している小玉氏は大人たちの課題と今後の取り組みについて語りました。
「子どもたちはメタバースという概念を完全に理解しているのに対して、自治体の職員に限らず大人たちがあまり可能性を認識しきれていないと感じます。なので、例えばチャットグループからはじめたり、ワーキンググループに遊びに来てもらったりするなど、ハードルを下げるところからやっていきたいですね」