幻滅期を抜けたメタバースの要は生成AI

このセッションでは、生成AIの台頭がメタバースの普及にどう影響するか、その先にはどのような世界が広がっているのかについての深いディスカッションが行われました。

宮田氏は、メタバースの現在地について、「今は幻滅期を抜けたところにいる」と話します。

馬渕邦美 氏:一般社団法人Metaverse Japan 代表理事/デロイトトーマツコンサルティング パートナー/一般社団法人 Generative AI Japan理事(左)/ 金出武雄 氏:カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授/京都大学高等研究院 招聘特別教授/産業技術総合研究所 名誉フェロー/MetaverseJapan Lab名誉顧問(中央)/ 宮田裕章 氏:慶應義塾大学 医学部 教授(右)

「幻滅期のまま忘れられていく技術も少なからず存在しますが、メタバースはまた戻りつつあります。バーチャルワールドの中で人がいろいろな活動をすることが消えるわけはなく、今後そのウエイトが上がっていくことは間違いないと思います」(宮田氏)

そして、メタバースが次の段階に進もうとしているなかで重要な技術が生成AIであるといいます。

「メタバース空間を作る技術を持った人は限られており、制作に工数や費用も必要でした。生成AIによってプロンプトなしで自分の世界を作れるようになることで、それが多くの人に開かれます」(宮田氏)

宮田裕章 氏

金出氏は、メタバースの世界をどう作るのかという点に着目して、次のように話します。

「メタバースの”バース”は、世界という意味です。私たちの住んでいるフィジカルな世界にメタバースの世界をどこまで近づけるかを考えていくことが、まずひとつの方向です。これは現在のAIが、いろいろな意味でフィジカルなモデルとしてできることが増えてきたことによるものが大きいです。一方で、フィジカルに近づけるのではなく現実を超えたアーティフィシャルな世界を作る方向もあります。その方が面白いし、我々の世界も広くなります。メタバースという観点から見ると、そういった2つの相反するゴールが両方とも重要だと考えています」

そして、「リアルワールドの中で最も重要なものは人」であると金出氏はいいます。つまり、「世界をどう作るかを考える際と同じように、メタバース内の人についても、フィジカルな意味での人に近い人を作ることと、私たちの想像を超えるような十分にアーティフィシャルなものを作ることの両方の考えが必要」だといい、それを可能にする道具を私たちに与えてくれているのがAIだと話します。

金出武雄 氏

メタバースのなかでSLMが磨かれていく

宮田氏は、メタバースのいいところは“メタ”である、つまりたくさんの世界が存在することにあり、それがAIの進化ともシンクロしていくと説明します。

「生成AIはLLMの進化で普及しましたが、LLMは基本的にインターネット上に公開されている情報から学習を行うものです。そして、ビジネスにおいては、LLMの学習データ上には存在しない“答え”を必要とするケースも多々あります」(宮田氏)

例えば営業なら、それぞれの顧客にとって買い時はいつなのか、その商品を買うことがその顧客の人生の豊かさにどうつながるのかといった情報をLLMは持っていません。そこで鍵となるのが、SLM(Small Language Model)だと宮田氏はいいます。

「領域ごとのビジネスモデルを作っていくうえでは、個別の空間、つまりメタバースを作ってそのなかでSLMを磨くことが必要です。そして、その一部が全体共有のLLMに加えられていきます。それぞれの空間が公開された情報だけでは実現できない新しい価値を作り、それらがゆるく連動しながらメタバースとして形成されていくようになると思います」(宮田氏)

大切なのは、技術によって“何を実現したいのか”

生成AI時代のメタバースの先には、どのような世界が広がっているのでしょうか? 両氏は今後について次のように今後を語りました。

「私はこれまで、フィジカルなリアルワールドを中心に扱ってきましたが、最近はその逆も面白いと感じています。生成AIをワールドモデラーとして見た場合、“この世界はこう動いている”とある程度予測でき、生成できるものがなければ私たちのやろうとしていることは実現できません。そのときに、生成AIの仕組みがどこまで使えるのか、あるいは従来のものでいいと考えて応用していくのかといったことを、それぞれの立場で考えると面白いことができるはずです」(金出氏)

「時代の変化のなかで何がブレイクスルーになるかを予測するのは難しいですが、どういう社会を実現したいのか、未来に向けて何をすべきなのかという部分は、変わることがありません。技術動向を追うことも必要ですが、それ以上に大切なのは、自分たちは何をすべきなのか、何をしたいのかを考え、そこに対してぶれずにいることだと思います」(宮田氏)

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