テクノロジーに必要なのはガイドライン
このセッションでは、新しいテクノロジーがどのように社会をアップデートしていくのか、そのために何が必要なのかといったことが議論されました。
最初のテーマである「企業でテクノロジーが使われるためのルール作り」について、平井氏は「一つの法律で縛ることはまず不可能」と強調します。
「テクノロジーは実際に使ってみないと本当のリスクはわかりません。人権侵害や人の命に関わることは普通の法律で適用できるので、使う分野ごとにガイドラインを設けることが必要だと思います」(平井氏)
江崎氏も「テクノロジーとは中立性があるものであり『発明が必要を生む』の言葉通り、テクノロジーが発明されることで怪しい使い方を考える人が現れる。初めからリスクを取らないようにするのが日本式のリスク管理だが、アメリカはリスクを取ってチャレンジすることで成功した。人権侵害や生命に関わるルールを押さえておいて、あとは適宜ルールを作っていくのが良い」と話します。
新しいテクノロジーを使ってみるカルチャー作りが重要
次に馬渕氏が社内のカルチャー作りについて山口氏に尋ねました。「パナソニックコネクトがChatGPTをスピーディーに全社導入できた背景には、技術導入のプロセスや最低限のリスク管理を講じて、みんなが安心して使えるような環境を作ったことが挙げられます。この『とりあえずやってみよう』という考え方やカルチャーがあるのが大きかったと思います」(山口氏)
一方でテクノロジー導入にあたっての企業の課題について、さまざまな企業で1年間テストを行ってきた玉城氏は「企業によって文化が異なり、すぐに導入しようという企業もあれば、他の企業が3年使ったら導入しようという企業もあった」と話します。
また、ほとんどの企業でソフトウェアのインストールはNGでも、ブラウザ版であれば導入できるという企業が多かったことについて玉城氏は「ずっと使っているブラウザは安心ということで導入が少しずつ進んでいる。テストの結果、すでにインストールされているソフトウェアであれば信頼できると考えている企業が日本には多い。ChatGPTはブラウザなので導入が速かったということも考えられる」と日本企業の体質について言及しました。
法整備にエンジニアを参画させたい
続いて日本政府がテクノロジーフレンドリーに変わってきた背景について平井氏は次のように話しました。
「社会の延長線上に伸びしろがなく、効率化をしないと今の行政サイズを維持できないとみんなが気付き始めました。そこで新しいことにチャレンジしようという勢力が、特にデジタル関連の政策に関わっている官僚や政治家に増えています。テクノロジーにしか活路を見出だせないというのが共通認識です」
特に資源の少ない日本にとって、リアル経済の分野で成長力や競争力を取り戻すことは難しいため、ブルーオーシャンであるデジタル経済圏が注目されるようになっていることから「Web3関係の法律の進め方では日本が一番進んでいる」と平井氏は言います。
また玉城氏も「日本はプログラミングや技術スキルが各国に比べレベルが低いと言われているが、ChatGPTの登場でやっとチャンスが来た状態。教育水準が高い日本人がデジタルを使える橋渡しとなるのがAIなので、そこのルールやガイドライン作りは今後の日本の発展に大きく影響する。今はまさに分岐点に立っている状態」と考えを示しました。
ChatGPTを活用している山口氏も「日本だけでビジネスをする時代ではない。日本企業はグローバルスタンダードの技術やカルチャー、価値観などを学んでアップデートしていかなければならない」と強調します。
江崎氏は「国が法律を変えているのは、みんなが走れるようにするため。致命的なことでなければ、どんどん発明して多少の失敗は許せる環境を作ろうとしている」と話すと、平井氏は「今までは法律を学んだ人が法律を作っていたが、それでおかしくなってしまった。これからはテクノロジーがわかる人やエンジニアを増やし、社会や法律を変える意思決定プロセスに参加できるようにしたい」と今後の展望について語りました。
平井氏の発言を受け、玉城氏も「これから一大産業の要となるエンジニアリングに携わる人を、法整備や規制緩和に導入するかは、日本だけでなく国際的にも重要な課題になると思う」と話しました。
社会変革のネクストステップは
最後に馬渕氏がテクノロジーによる社会変革のネクストステップについて尋ねました。
「国自身がデジタル化に向けて変わろうとしています。企業もチャレンジを続けなければなりません。みんなが意識を変え、繋がり、社会をより良く変えるパワーを作っていきたいと思います」(山口氏)
「楽しくないと進歩できません。楽しく仕事をして、楽しくチャレンジすることが大事です」(江崎氏)
「新しい技術が出てきたときに、すぐに試して楽しむというカルチャーを個人や企業、自治体、国、地球全体で作っていかなければならないと思います」(玉城氏)
「リスクを取らないと次の未来が描けません。新しいやり方を考えない限り今の日本を維持することは不可能です。日本はまだリスクを取れる余裕があるので、ラストチャンスだと思ってやっていきたいと思います」(平井氏)