メタバースは国境や肉体の限界を越える
このセッションではAIやメタバースの登場で劇的に変わった働き方について、現場のクリエイターの目線から語られました。
メタバースクリエイターズ代表の若宮氏は「メタバース内で仕事するようになり場所の制約がなくなったことで、海外のユーザーとも仕事をする機会が増えた」と話します。
「アジアだけでなくヨーロッパや南米の方とも一緒にお仕事する機会があるのですが、お互いリアルな姿を知らないまま仕事をしています。僕なんて普段はシロクマの格好をしていますし、現実の体や見た目に左右されずに働けるのはメタバースならではだなと思います」(若宮氏)
世界で活躍する日本のクリエイターを生む目的で立ち上げられた『メタバースクリエイターズ』。2023年4月に立ち上げた同社でも、同様な流れが見られると若宮氏は言います。
「メタバースクリエイターズのメンバーは基本的にアバターで働いているため、年齢や性別、見た目などわからない人がほとんどです。けれど、現実ではなかなか実現できない面白いものを作るという共通認識があるからこそ、つながりや出会いから仕事が次々に生まれています。現在では自治体や企業とのコラボレーションもしており、日本のコンテンツで世界をあっと驚かせる、リードできる存在を目指して日々活動しています」(若宮氏)
クリエイターが考える生成系AIとの向き合い方
3Dモデラーのイカメシ氏は生成系AIの活用方法を問われ、「制作のコンセプトを深めるために壁打ち相手になってもらったり、分からないこと、未知の領域のことを教えてもらうコンサルタントになってもらっている」と答えました。
メタバース空間のワールド制作では、すでに生成AIが活用されていると若宮氏は言います。例えば、クラブをコンセプトに作られたあるワールドでは、浮世絵風の絵が描かれた屏風が浮かび、音楽に合わせて空間内を旋回する不思議な表現が実現されています。
ここで使われる屏風には画像生成AIのStable Diffusion が使われているとのこと。「生成AIによって、従来ではイメージがあっても形にできなかったものが簡単に作れるようになった」とそのメリットを強調します。
「2次元の絵を描くクリエイターの世界では、『AIに仕事を奪われる』などと言われていますが、メタバースクリエイターズのクリエイターたちは皆、AIを活用しています。たとえば、海外のユーザーに向けて寿司のアセットを作るなら『海外で人気の寿司を上位10位まで挙げて』とChatGPTに聞くことができますし、英語も逐次翻訳を行う従来の翻訳ツールに比べて伝わる英語が出てくることが多いと感じます。AIを活用することで海外にどんどん発信できるようになるので、これからも発信の機会を増やしていきたいと思っています」(若宮氏)
苦手なことはAIに任せればいい
セッションのテーマである「AIとメタバースがくれた働き方の新風」についてさわえ氏は、「デジタルの体をもつメタバースの世界にいるからこそ、AIとともに作ったものがそのままコンテンツになっていることや、クリエイションの世界に入りやすいことなどを感じている」と話します。
さわえ氏がCOOを務めるHIKKYでは、そんなメタバースの世界にたくさんの個人クリエイターやユーザー、企業が集う大規模イベント「バーチャルマーケット」を開催。バーチャル世界のクリエイターがどのような活動をしているのかを実際に見ることができます。
最後にAIとメタバースが教えてくれた新しい働き方について、それぞれがクリエイター目線で語りました。
「見た目や性別、年齢などの物理的な身体に囚われて生活している方は多いのではないでしょうか。そんな方にはメタバースをおすすめしたいですし、騙されたと思って2週間ほど深く体験してみると感覚はかなり変わると思います。今まさにAIとの組み合わせで現実世界ではありえないカオスなものがたくさん生まれています。そのカオスをユーザーの皆さんと一緒に楽しんでいきたいです」(若宮氏)
「実は絵を描きたかったけれど描けなかった時期もあったんですが、苦手なことをAIにお願いすることで、無理に克服しなくても自分の好きなクリエイティブに集中して、制作の仕事だけで生活できるようになりました。これが新しい時代の働き方なのではないかと思います」(イカメシ氏)