メタバースやVRの普及促進に尽力


国土交通省は、12省庁の中でもDXに力を入れている省庁の一つです。

九州地方整備局も、2021年4月にインフラDX推進センターを設置し、整備局内のDXを推進。同時に、福岡市にある整備局6階にインフラDXラボを設け、メタバースやVR、クラウド、5Gなどの開発や、それらの技術を用いた働き方の提案、普及促進に取り組んでいます。房前氏は、なぜ同局がDX推進に取り組んでいるのか、その理由について、次のように語りました。

房前 和朋 氏:国土交通省 九州地方整備局(左)
小宮 昌人 氏:JICベンチャーグロースインベストメンツ イノベーションストラテジスト(右)


「国土地理院をはじめ、国土交通省は、国土の正確なデータを持っていたものの、測量や設計に使われるばかりであり、メタバースやデジタルツインに使おうとの発想がありませんでした。そこで、九州地方整備局は、こうしたデータを使い、メタバースやデジタルツインなどの技術と組み合わせ、社会をより良くする取り組みを行うことにしたのです」

 

メタバースは住民からも好評


房前氏によれば、同局では、2018年から「VR研究室」を設置してインフラ分野の3次元デジタルデータ活用に取り組み始め、21年7月には、「河川CIMの標準化案」の一部としても提案したといいます。

さらに、同年12月には、大分、福岡両県を流れる山国川のインフラ整備をめぐる地元住民との協議の場で、メタバースを用いて意見交換を行いました。協議では、住民が実際にヘッドマウントディスプレイを装着し、整備後の世界を体験。それを元にさまざまな意見を集めました。

房前 和朋 氏


「『ドッグランに日陰を作ってほしい』との意見には、簡単に夏の一番暑い時期の正午の日陰が再現できました。また、お子さんを持っている親御さんからは、川の危険箇所を確認できたと大変好評でした」

メタバース化には、河川管理のために測量した既存のデータを使用。手書きのイメージではわかりづらかった細部の形状や高低差、位置関係などが直感的に理解でき、住民が未来の生活をイメージできることがメリットです。

さらに、住民にとってわかりやすいだけでなく、整備する側にとってもメリットが多いと房前氏はいいます。

「従来は、デジタルで測量・設計したデータからアナログのイメージパースや模型を起こして合意形成を行い、それを再度デジタルで図面にしていたため、データが「デジタル→アナログ→デジタル」となり、非効率でした。メタバース活用の新しいワークフローでは、すべての工程をデジタル化できるので、工期・コストの短縮につながります」

 

デジタルツインで洪水などの予測も可能に


このように作られたメタバースは、国土の正確なデータをベースにしていることから、さまざまなシミュレーションを実施して将来を予測するデジタルツインとしての活用も期待できるといいます。

「今まで、洪水時など複雑な水の流れを再現する術はありませんでした。ゲームエンジンを用いることで、仮想の世界で水の流れや風、電波の状況などを可視化できるようになりました」

 

課題解決に向けて3Dモデルを無償公開


房前氏は、未来の公共事業について、現実世界で測量(コピー)したものを仮想世界に再構築(ペースト)するといった工程を通じ、「よりよいインフラ整備が可能になる」と強調しました。

小宮 昌人 氏


「取り組みの中で苦労した点や、苦労からどう打開したか」という小宮氏の質問に対しては、房前氏は次のように答えました。

「まずインフラ分野のメタバース技術を活用できる人材は少ないうえ、技術的に難しい部分があります。また、ゲームエンジンは海外で作られているものが多く、日本固有の植物や特徴的な地形、資材が少ないのも課題です。さらに、せっかく三次元で作っても、モニターは二次元のため、結局二次元でしか体験できないのも課題といえるでしょう」

こうした課題に対し、房前氏は、人材不足の面では、「ゲームエンジンを用いた川づくり」の操作マニュアルやプラグイン、設定マニュアル、3Dモデルなどを公開し、普及促進を図っていると紹介しました。また、ゲームエンジン上に固有の素材が少ない課題に対しても、一部の植物や地形などを3Dモデルにし、無償で公開しているとしました。

「建物物価調査会を通じてメーカーが作った3Dモデルをゲームエンジン上で無償公開するという試みも始めています。まだ、参画企業が少ないものの、こういった取り組みを広げることで、ボタン一つでデータがダウンロードできるようになればと考えています」

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