Metaverse Standards Forumが考える標準化とは?
このセッションには、メタバースの国際的な標準化団体であるMetaverse Standards ForumのNeil Trevett氏がオンラインで登壇。同団体がめざしていることについて語りました。
「『メタバースとは何か』についての一番簡単な答えは、ワールドワイドウェブの接続性と没入型空間の組みあわせだと思います。私たちが発見したばかりのこの方法に、どうすれば価値を付加できるのかと考えたときに重要となるのが、非中央集権的なブロックチェーンとWeb3だと思います。そして、機械学習と人工知能は高度なユーザーインターフェイスを作るためにあらゆるところで使われるようになります。
メタバースは、これらの技術をすべて一緒に組み合わせることができるのです。この領域で活動する企業にとっては大きなチャンスとなりますが、物事がどの方向に進んでいくかを知るのは難しいことです。メタバースの可能性を最大限に引き出すためには、これらの技術の間の相互運用のための標準化が不可欠です。相互運用性によって実現するより大きなプラットフォームに、より多くのユーザーが参加することができ、より大きな経済効果を得ることができるのです。
たとえば、ブロックチェーン技術を使い、どのようなサービスでも、ユーザーの評価や支払い、IDなどを確認できるようにすること、オブジェクトやアバターをその場から持ち出せるようにするためにも相互運用性が必要です。
簡単に異なるメタバース空間に移動できるようにする必要がありますが、これは単なるエンジニアリングの問題ではなく、多層的な問題です。たとえば、3Dオブジェクトをある世界から別の世界へ持っていくことができても、IPの所有権やビジネスモデル、あるいは年齢などが適切ではないかもしれません。
これは協力して考えなければならないことです。そして、オープンスタンダードはそれを実現する方法です。これはオープンソースとは大きく異なります。オープンスタンダードには仕様があり、適合性テストがあります。つまり、その技術の複数の実装を可能にするのです。
Metaverse Standards Forumは、より広い業界とコミュニケーションをとり、協力するための場所です。そして、私たちが必要とする標準化を支援しようというシンプルな目標を持っています。私たちは、Metaverse Japanと共にオープンなメタバースを作っていくことを楽しみにしています」
アバター標準化の関心度は?
続いて、会場の登壇者とTrevett氏との間で質疑応答が行われました。石井氏は、「アバターの標準化は、Metaverse Standards Forum内でもまだそれほど関心が高くないのでは?」と質問。それに対して、Trevett氏は次のように答えました。
「個人のアイデンティティと密接に関係しているアバターは、ユーザーが相互運用性を持てるようにしたいと思うであろう、最も重要な3D資産の1つだと思います。VRMはすばらしい仕事をしており、私たちはそれを手伝いたいと思っています。アバターには、デジタルファッションのようなおもしろい使い方があり、たくさんのチャンスがあります。私たちはアバターに対して多くの関心を寄せています」
斎藤氏は、GAFAMの標準化に対する姿勢や標準化のメリットについて質問。「大企業は標準化をせずにユーザーを囲い込たいのでは?」と問いかけました。
「それは素晴らしい質問です。そして、私は思うのです。業界のどの分野でも 一部の企業の独占は常に存在する。彼らのビジネスモデルは、物事を独占すること、維持することに依存しています。
一方で、相互運用性を確保し、より大きなコミュニティの一員となることにメリットを感じている企業も存在します。どれが最も成功するかがわかるのはこれからです。標準化コミュニティの役割は、オープンで相互運用可能であることを望む企業を支援することです」(Trevett氏)
日本人は標準化が下手
続いて会場では、Trevett氏の話と質疑応答の内容を受けたディスカッションが行われました。
高村氏は、標準化のために重要なこととして、「標準規格は拡張性がすべて」と強調します。
「後方互換性をしっかり残していかないと、あっという間に使えない技術になってしまいます。たとえばWi-Fiでは、いまだに20年前に使われていた規格に対応し続けていますが、これも後方互換性のためです」
石井氏は、日本はアバター文化が海外に比べて先行している国である点を指摘し、その可能性を語りました。
「Metaverse Standards Forumのワーキンググループで唯一日本人が議長を務めているのがアバター標準化のグループです。今後、日本が主導するかたちでアバターの標準化を進めていきたいと思っています。海外はでアバターというと、『リアルの自分そのもの』という発想があるので、その違いについては意識する必要がありますが、アニメなどのIPコンテンツを安全に流通させるようなしくみづくりとしては、とても重要になってくると思っています」
斎藤氏は、「法律は基本的に国ごとに違うので、技術の標準化以上に標準化を進めるのが難しい部分がある」と指摘。
「メタバースは地域性がなくグローバルに広がっているので、たとえば名誉毀損や著作権違反があった場合にどこの国の法律が適用されるのかが問題になります。被害を受けた人が救済をちゃんと受けることができる体制づくりが必要なのだろうと考えています」
セッションの最後に、高村氏は次のように今後の展望をまとめました。
「日本人は標準化がすごく下手なんです。自分たちの技術が国際基準に採用されましたとなったときに、なぜか率先して安くしてしまい、利益を得るという発想にならないんです。すると結局、企業の中で標準化を担当する部署によい人材が集まりづらくなり、負のスパイラルが起きてしまいます。欧米の標準化の取り組み方を学ぶという意味でも、メタバースのような若い人が興味を持つ分野で標準化が動くのはよい機会だと思っています」