地域課題の解決を目指したメタバースの取り組み


DNPは地域課題の解決を目指すためにメタバースの取り組みに力を入れています。2021年春に開始したメタバース構築支援「PARALLEL SITE」は、“実在の場所の価値を広げていき、リアルな環境との架け橋を目指すこと”がコンセプトのサービスです。

「自治体や企業団体などの公認を得てデジタルツインのバーチャル空間を建設し、作り上げたバーチャル空間をユーザーがコピーして利用できるような設計を考えています。場所が持つ価値の拡張や進化ができると考えています」と宮川氏は語ります。 

宮川 尚 氏:大日本印刷株式会社 ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 部長


さらにパラレルに場所を拡張できるという考えをもとにして地域課題の解決をメタバースで探っていく、地域共創型XRまちづくり「PARALLEL CITY」という試みを行っています。

「メタバースビジネスの話題が先行しがちですが、具体的な可能性を探索するには、まちづくりというエコシステムから考えることは有効なアプローチだと思っています」(宮川氏)


宮川氏はさらに「PARALLEL CITY」で実施している複数の事例についてスライドや映像を交えて説明しました。

 

地域創生を目指す取り組みと事業内容


DNPでは、メタバース・Web3を使った地域創生の取り組みとして、文化施設PFI(MLA)や文化財・美術のデジタルアーカイブ化、コンテンツコミュニケーション、MaaS、ソーシャルアクション、行政DXなど幅広い事業を手がけています。

「教育機関や文化施設を複合的に組み合わせて地域内外の交流の場を生み出す場所にリデザインして管理していくことは、メタバースの連動を設計段階から考慮した開発も進んでいくのではないか」と宮川氏は語ります。

同社はこれまでにも、ルーブル美術館で文化財・美術をデジタルアーカイブする取り組みを行ってきました。そこで得たノウハウは、対象物にストレスをかけない撮影技法や、鑑賞する環境に合わせてクオリティの基準を決める技術に活用されてるといいます。


宮川氏はさらに「メタバース事業推進の先陣となるようなXR技術を独自で発展させていきたい」と語ります。

地方で資源のデジタルアーカイブ化が進むと、地域を超えたコンテンツの連携が可能になり、観光PRなど多様な切り口で地方を深く理解してもらえることにつながるといいます。セッションではその取組みとして、デジタル田園都市構想の取組みなどをスライドや映像をもとに紹介しました。

 

地域創生課題の本質は人口問題


「現在のメタバースやWeb3の流れは、地域創生を大きく動かすものになりうる」と話す宮川氏。DNPが考える地域創生にメタバースを活用する理由として、関係人口の拡大を挙げます。

「観光で交流を深めて関係を築き、最終的には定住してもらうのが地域活性化の流れです。地域のエンゲージメントを高めるためには、メタバースの環境を整えて遠隔地にいながらにして継続的に関わることのできる状況をつくることだと考えています」(宮川氏)

その取り組みの一環として、バーチャル宮下公園内で渋谷の子どもたちが京都市の職員と交流する取り組みや、佐賀県嬉野市の取り組みなどを紹介。嬉野市の「バーチャル観光案内所」は、旅行前のブラウザ版メタバースからの体験と、現地の観光案内所でのXRの体験を組み合わせたもので、地域に対する理解を深めることを目的としています。

「さまざまな形でメタバースを進めていますが、課題は依然として多い状況です。ただ、地域とメタバースは相性が良いという実感を持っています」(宮川氏)

 

あらゆる社会と私をつなぐPARALLEL MEの可能性


DNPでは現在、アバターサービス「PARALLEL ME」の開発を進めています。その概要について、宮川氏は次のように説明します。

「今後、メタバースが生活圏へと拡大してくるとユーザーのアカウント問題やプライバシー問題が重要になります。『PARALLEL ME』は、そのニーズを支える基盤をブロックチェーンを活用して作成するサービスです」


自分のスキルや経験をIDと紐付けて管理するVC(Verifiable Credential)という自己証明の考え方を基本としたしくみで、活動するコミュニティごとに異なる自身のアイデンティティを安全に管理・運用することが可能になります。

自分が保有するアバターと資格証明を連携することで、たとえば「バーチャルビジネス街を散策中に、自分のMBAの資格情報を目にした企業からコンサルティングの依頼を受ける」「自治体公認バーチャル街でツアーコンダクター資格をいかして外国人に観光案内を行い、自治体からポイントを受け取る」といったことが実現するといいます。

「PARLLEL MEによって、デジタルアイデンティティをパラレルに拡張できます。複数の社会での活動をつなげて同期することで、私を1人以上の存在へ導く。それがPARALLEL MEが実現する未来です」

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