文化財活用ために生まれたメタバース博物館


「京都の奥座敷」と呼ばれる歴史ある町・亀岡市の文化財が収められているのはメタバース空間にあるデジタルの文化資料館。地域創生とメタバースの活用として最先端を行くこの取り組みは1.2億円というメタバース事業の中でも破格の予算です。

その先頭に立つ飛鳥井氏は、普段デジタルに関わる仕事ではなく市の文化資料館の一学芸員というから驚きです。

黒田 貴泰 氏:株式会社stu CEO / Creative & Entrepreneur(右)
飛鳥井 拓 氏:亀岡市文化資料館 学芸員(左)


「文化庁の要請で亀岡市文化財保存活用地域計画(令和4年文化庁認定)を作成しました。
亀岡市の文化財の保存と活用のための10年間の活動方針とアクションプランを示したものです。文化財保護法が改正され、保存だけでなくより活用も重視されており、その中に今回のデジタル化も位置づけてられています」(飛鳥井氏)

プロジェクトを受託した株式会社stuはNHKの番組やKDDIの渋谷メタバースを手がけています。代表の黒田氏は偶然この公募を見つけて応募したといいます。

「驚いたのが公募要項の完成度の高さでした。メタバースをどのように地方創生に活用していくかが非常に丁寧にまとめられているので、メタバースと地方創生に関わる人には参考にするようにすすめています」(黒田氏)

黒田 貴泰 氏


黒田氏が激賞する公募要項を飛鳥井氏はどのようにまとめたのでしょう。

「作るのに2、3ヵ月かかりました。文化資料館だけではデジタル関係の仕様書をまとめるのは難しいので、市や京都府のデジタルに詳しい職員に協力してもらいました」(飛鳥井氏)

 

文化財をデジタルで保存する意義


「文化財は基本的には現物として保存して守っていくのが原則です。しかし、考古学の遺跡は都市開発の中で失われていくものもあります。また美術工芸品にしても経年劣化してきます。デジタルでパックすることで、現存のままの保存が可能になります」(飛鳥井氏)

令和4年に博物館法が改正され、デジタルアーカイブの作成と公開が義務付けられています。文化財のDX化は全国の博物館の課題となっています。

「大きいものになればなるほど、いつデジタル化したのかが重要になります。今あるものを今ある技術でデジタルアーカイブ化すれば、人の手による再構築が不要です。今保存したものが未来には違った価値を持つものになるかもしれません。」(黒田氏)

「亀岡市の文化財は博物館の中よりも神社仏閣に多くあり経年劣化していく状況です。またお祭りのような無形民俗文化財の場合、年々やり方や道具も少しづつ変わっていきます。現在のものをデジタルで保存することには大きな価値があります」(飛鳥井氏)

飛鳥井 拓 氏

 

メタバースでしかできないことを


黒田氏はメタバースにおける展示の意義を「予算を含めて物理的な制約から解き放たれること」と言います。

「本来ならば莫大な敷地と無限の予算がないとできないところを、CGの技術を使って擬似的に再現すれば、本当の博物館とは違った軸を目指せるのではと考えています」(黒田氏)

デジタル博物館ではstuの技術を使って現実世界では表現できない2つの展示に取り組んでいます。

「1つは亀山城の復元です。本能寺の変で有名な明智光秀が築いた城として知られていますが、実は明治時代に取り壊されたままです。今回、残された資料を基にメタバース空間でリアルに再現しています。もう1つは亀岡市出身の有名な画家円山応挙のふすま絵の復元です。亀岡市の寺院に残された応挙の絵は全部で57点ですが、現在は全て軸などに表装されています。それを江戸時代当時にあった形で、寺院のふすま絵として再現しています」(飛鳥井氏)

「メタバースはコミュニケーションの新しい形の側面が注目されがちですが、文化財保全こそメタバースに向いていると思います。正しい形・文脈での保管保全を重視しています」(黒田氏)

 

博物館体験をアップデート


デジタル資料館はVR機材や高性能なPCは必要がなく、スマホのWebブラウザから簡単にアクセスが可能。しかしながら、映像表現のクオリティは非常に高く、「プレステ5並かそれ以上のクオリティのグラフィック体験ができる先進的なもの」と黒田氏は胸を張ります。

「若い世代にとっては、文化的な資料を一方的に受け取るだけでなく、ゲーム性を持って面白く見せていくことが大事です」(黒田氏)

「教育現場にはメタバースは非常に有効だと感じています。バーチャルな城下町や寺院を探索しながら知らず知らずに亀岡市の歴史を学べます。学校教育とのデジタルの導入や連携を進めていきたいですね」(飛鳥井氏)

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