渋谷が取り組む2つのエリアのデジタルツイン
このセッションには、デジタルツインのに実装を手がける国や自治体、企業の第一人者が集結。デジタルツインの現在地と、今後の課題や未来の展望について議論しました。
渋谷区では2022年に、産官学の60を超える団体が参加する「シブヤ・スマートシティ推進機構」を発足。駅周辺の「都市再生緊急整備地域」と、笹塚・幡ヶ谷・初台を中心とした「北渋エリア」の2地域に重点を絞って展開しています。
「行政のデータで価値があるのは動的データ」と話す澤田氏。サービス開始3ヵ月で国内トップになった渋谷のデジタル地域通貨「ハチペイ」で得られるデータも、今後積極的に活用したいと意気込みます。
それに加えて、人流や車両の移動のデータを取得したり、ビルのエネルギーデータを連携したりできる環境の整備を進め、デジタルツインに生かしていくといいます。
「たとえば緊急整備地域では、街がどんどん変わっていきます。新しいビルができれば人流が変化し、それにともなって災害発生時の帰宅困難者の誘導方法も変わります。それをデジタルツインの中で事前にシミュレーションすることで、自治体にとって優先度の高い『安心・安全』の実現につなげることができます」(澤田氏)
県全域の点群データを取得した静岡県、東京都も実現めざす
「バーチャル静岡」は、縮尺1/1の静岡県を仮想空間に再現する取り組みです。2019年からの3年間で県の全面積7777 km²のデータを取得。点の数は約5千億点にのぼります。さらに、このデータはオープンデータとして公開され、誰でも無償で活用することができます。
(バーチャル静岡についての詳細は、「デジタルツインによるまちづくり『VIRTUAL SHIZUOKA構想』」のセッションでも紹介しています)
そして東京都では、2020年に「東京都デジタルツイン実現プロジェクト」を開始。2030年の「完全なデジタルツインの実現・高度化」をめざし、都庁の各部署が保有するデータの整備や3Dの都市モデルの構築などを進めています。
その一環として、静岡県同様に点群データの取得を進める予定だといいます。同プロジェクトに参画するSymmetry Dimensionsの清水氏は次のように話します。
「2021年に発生した熱海の土砂災害では、私たちの会社のチームが点群データの解析にあたっています。熱海市の事例がきっかけとなり、東京都全域でも点群データをオープンデータ化していくことになりました。都内全域でさまざまな利活用ができるようになると期待しています」
国主導でオープンな3D都市データを作る「PLATEAU」
国土交通省が主導するプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」は、全国の3D都市モデルを作り、オープンデータとして公開する取り組みです。
建築物や道路、設備などに加え、都市計画や災害リスクといった目に見えない情報も含めたデジタルツインデータを作るもので、まちづくりや防災、観光、インフラ管理など幅広い分野での活用が期待されています。
3Dの地図がオープンデータとして公開されるのは日本初とのこと。内山氏は、「国主導で進めることで全国で標準化・均質化したデータをつくることができる」と、そのメリットを語ります。
(PLATEAUについての詳細は、「国と地域が一緒につくるデジタルツイン」のセッションでも紹介しています)
デジタルツインの課題とは?
セッション後半は、今後の課題についての意見交換が行われまました。内山氏は、「PLATEAUのデータを使ったサービスが実装が進んでいるのはデータが標準化されているから」と分析。それを受けて清水氏は次のように話します。
「PLATEAUや、静岡や東京の点群データなど、3Dのデータは揃ってきました。次はそこにどんなデータを組み合わせて、何を実現するかを検討する実装段階に入ってくると思います。まだまだデータが扱いにくく、ハードルが高い部分があるので、それを扱いやすくすることに取り組んでいきたいと思います」
「自治体としてデジタルツインを作る価値を聞かれることが多い」という杉本氏は、その強みを次のように語りました。
「行政は失敗できないという風潮がありますが、仮想空間は失敗が許されます。尺1分1の空間の中でシミュレーションをして1度失敗をして、関係者から意見をもらって修正していくことができます」
そして、「DXとデジタルツインの関係性」を問う中馬氏に、澤田氏は次のように答えます。
「DXはトランスフォーメーションにこそ意味があります。デジタルはあくまでもツールに過ぎず、いかに社会を変革するかが重要です。デジタルツインも手段なので、取り組まないと意味がありません。ともかくやってみることが大事なので、失敗しても怒られないムードを企業側にも作っていただけたらいいですね」
最後に、中馬氏がセッションの内容を次のように総括しました。
「まずベースはDXで業務や行政のサービスを変える。その先の表現としてあるのがデジタルツインの活用という印象を受けました。一方で、中身より先にまずは作ってみる、やってみることも大切です。その両方のアプローチが必要とされているのがデジタルツインの現在地なのだと思います」